寓司と十四分の二の贈り物
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(この一連の怪文章はtwitterの一時間でtaleを書く企画に出したものです)

空白
空白

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「幸子成分が足りない!!!」

ほの暗い研究室の中、僕、猫宮寓司は一人そう叫んだ。

最後に妹にあったのはいつだろう。
仮に三日としよう。そして僕はその間一日千秋の思いで会いたがり続けたわけだから、つまり3000年分会ってないんだ。
ん?いや違うか?うーん、違うような気もするし違わないような気もする。
幸子成分の欠乏は致命的な思考能力の低下を招くらしい。どうやら私は知らず知らずのうちに医学の発展に貢献してしまったようだ。

しかしなぜ僕はこんなにも長くの間幸子と離ればなれなんだろう。
幸子がこんなにも長い間会いに来てくれないことなんて……割とあったかもしれない。
いやだがしかし連絡がつかなくなったことは……あったな、割と。あいつアホだからスマホの充電忘れてすぐ連絡付かなくなるもんな。けどそこがかわいいんだよな。

冷静に考えると割と大丈夫な気がしてきた。

……いや、ダメだ、万が一を想定するんだ。
うむ、まずは比較的ありうる可能性……任務。
これはありえない。幸子のスケジュールは1年先まで確認済みだ。
となると……たんに遊びほうけてる。
これもない。流石にそんな理由で3日間も連絡が付かないほど幸子はアホじゃない。
次。事故に巻き込まれた。
これもまずありえないな。そもそもそんなおおごとなら、肉親である僕に連絡が付くはずだ。
となると……そうか、男か!!

成程そうに違いない、というかそれしか考えられない。
一体どこのどいつだ僕の可愛い幸子を誑かそうという馬の骨は。
容疑者その1、育良。
なんだかんだで一番幸子と仲がいいのはアイツだな。
よし殺そう。むごたらしく殺そう。その名のとおり海鮮丼の具にしてくれよう。
いや待て落ち着け猫宮寓司。仮に育良じゃなかったらどうする。人違いで殺人罪は嫌だぞ。しかも育良のために。
もっと冷静になれ、違う可能性を考えるんだ。よし。

容疑者その2、コールマン。
あのクソ女たらしならありうることだ。
よし殺そう。むごたらしく殺そう。コールマン殺すマン。
いや待て落ち着け猫宮寓司。これではさっきと同じではないか。もっと冷静になるんだ。Be cool。あれ、英語あってるのかこれ。

その3、は……何とか山。
なんだか知らないが以前一緒に現地調査に出たとか言う話を聞いた。
意外と女に興味をもってなさそうに見えて実は……という可能性も大いにありうる。
「君の瞳はまるで認識災害だね」とか言ってるに違いない。
よし殺……落ち着け。深呼吸だ。スー、ハー、よし次。


「なんてこった」
思わず僕はそううなった。気が付いたら容疑者は知っている野郎ども全域に及んでいた。
これじゃあ犯人が絞れないぞ、どうなってるんだ!

結局何の進展もないまま時間だけが過ぎていく。クソ、これだったら直接出向いた方が早かったか。
いや、今からでも間に合う。幸子をどこぞの馬の骨から救い出すのだ。
そう決心し僕は研究室の扉を開いた。

「きゃっ」

はたして、そこには幸子がいた。

「幸子!」

僕は何とも言えない安心感と充足感を胸に声をかけた。

「もう、急にあくからびっくりしちゃった」

「一体今までどこにいたんだ、心配したじゃないか」

「えっとねー、これを……」

そう言うと幸子は腰にかけていたかばんを漁り始めた。なんだろう、お土産か何かだろうか。
そう思っていると、丁寧に包装された箱を取り出して、こっちに差し出した。

「ハッピーバレンタイン!」

妹が発したその言葉を理解するのには少し時間が必要だった。

「バレンタイン……」

そうか。幸子のことで頭がいっぱいで日付を確認していなかった。今日は2月の14日じゃないか。

「大変だったんだよー、泊まり込みで串間さんに教えてもらってたの!」

箱を受け取り、ゆっくりと包装を解いて開けると、中には小さなチョコレートカップケーキが入っていた。

「そうか……そうだったのか……」

心の底から暖かい気持ちになっていく。これが幸せということなのか。
もう今なら死んでもいいや。

「喜んでもらえたかな?」

「ああ……ありがとう……本当に。大事に食べるよ」

「うん、良かった」

どうやら幸子も満足そうだ。その笑顔だけでどんぶり一杯は軽……

「じゃあ他の人にも配ってくるから、行ってくるね!」

えっ

「ちょっと待て、え、他の人にも配るの?」

「うん、当たり前じゃん」

「え、誰に?」

「えーと、育良くん、コールマンさん、ハラットベーラィアクワーサン山さん……とりあえず、お世話になってる人全員!!」


その後、僕と育良が命とカップケーキを賭けた戦いを繰り広げたことは言うまでもない。

ss
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