『〇〇をしないと出られない部屋』

ヨコシマ: 菊花薫る時節の折、時折秋雨の砌が地面に映える肌寒い季節、皆さま如何お過ごしでしょうか。第87回『〇〇をしないと出られない部屋』の実況担当となりました、エージェント・ヨコシマです。隣に控えているのは……、
 
忸怩: 解説の忸怩です。よろしくお願いします。
 
ヨコシマ: よろしくお願いします。さて、『〇〇をしないと出られない部屋』の開催も、あと数十回放送で記念すべき百回目の夢じゃありませんが、忸怩さん……一番印象深い実況部屋は、どれでしたか?
 
忸怩: 印象深い部屋ですか。そうですねえ……個人的にはですが、神山博士と大和博士の二人が閉じ込められた回が一番印象深かったですね。
 
ヨコシマ: ああ、あの回ですか。たしか、視聴者からの絶賛がすごかったですが、次回作にあたる朝比奈博士と近藤博士の両方を閉じ込めた回の反比例を考えると、確かにわたくしも印象深く記憶しております。それ以来、拳拳服膺し視聴者に不快な放送をすまいと心掛け自粛し、ここまで当番組を存続することができました。
 
忸怩: ひとえに根強いファンの応援のお陰ですね。記念すべき百回目までこの番組、継続できれば良いのですが……。
 
ヨコシマ: ええ、何せ出られない部屋のお題と選手がランダムな上、場合によっては放送中止となりうる可能性もあるわけですから。気を引き締めて参りたいと思います。
 
忸怩: ところでヨコシマさん。今回の出られないシリーズのお題と、選手二名は誰なのでしょうか。
 
ヨコシマ: 今回のお題は『相手を殺さないと出られない部屋』。選手に選ばれたのは、イトクリ外科医とエージェント・ヤマトモ選手です。
 
忸怩: 面白い組み合わせですね。お題目と人選共に意外性はないのですが、楽しみです。
 
ヨコシマ: ヤマトモ選手といえば、第三二回に一度出場していたと記憶しております。イトクリ選手は初めての参戦となるのですが、結果としてどうなるか……気になるところです。
 
忸怩: イトクリ選手はヤマトモ選手に好意さついを持っていますからねえ……正直なところちょっと予想できないのが、正直な感想です(棒)。
 
ヨコシマ: さて、今回のお題は『殺さないと出られない部屋』、該当選手は外科医とエージェントとなりましたが、両者、部屋に入った模様です。五メートル四方の一面真っ白な部屋。病院や研究室のような無機質さを感じさせる内装ですが、室内の床には拷問器具をはじめとした薬物毒物劇薬などのアイテムが所狭しと並べられています。そして扉近くの壁面には、『殺さないと出られない部屋』のお題目が電子板にデカデカと表示されました。
 
忸怩: ヤマトモ選手が目を丸くしていますね。そういえば、丸くするといえばこの間、真中が赤い洗面器を被った男に—―
 
ヨコシマ: おおっと! イトクリ選手、まさかの瞬殺。その手はギロチンもかくやと云わんばかりの斬首による瞬殺! ヤマトモ選手の首が落ち、血潮を噴き上げながら胴体が膝から崩れるー! 蜉蝣の一期よりも脆く儚く命を散らしたー! 
 
忸怩: お題掲示からクリアまで3秒です。見事な殺し方でしたね~。恐ろしく速い手刀です。迷いがないのが特徴的ですが、驚嘆すべきは歴代最速の3分20秒よりもスピーディに条件をクリアしたことですよ。これは当番組の歴史に残りますね。
 
ヨコシマ: これはさすがに、日常から音を殺して歩くのが癖になっているキルアも注目することでしょう。首を切断できた理由は彼が外科医であることから、人体の造形に詳しいことも手伝っているのでしょうが、それにしても異常です。忸怩さんはどう思いますか?
 
忸怩: 恐らく、外科医云々は関係ないと思いますよ。イトクリ選手のヤマトモへ対する思いは本物ですから。例え非力な幼女であったとしても、今と同じ結果を出した事と思われます。
 
ヨコシマ: それにしても早すぎる退室、そしてクリア。イトクリ選手はヤマトモ選手を一切顧みることなく、ドアノブに手をかけようとしていますが、このままでは面白くない。もっと斬新奇抜、多種多様な殺し方をしていただくために、スキップボタンを押させていただきます。
 
忸怩: 今回のスキップボタンによる選手への影響は、記憶が残る奴なのでしょうか? 
 
ヨコシマ: 記憶が残る奴です。我々が満足するまでループしたいと考えています。
 
忸怩: もはや親切心ゆえ殺している節のあるイトクリ選手と合わさって、観客席の屍人から熱いエールが送られています。応援歌ありがとうございます
 
ヨコシマ: 奉神御詠歌、ありがとうございます。さて……、お題目が出された状態へと戻った両人。ヤマトモ選手はあまりにも鮮やかかつ速やかの殺し方だったゆえか、まるで胡蝶の夢かデジャヴを体験した人のようにポカンとしておりますが、それに対してイトクリ選手は以前の記憶を憶えている所為でしょう。物思いに浸るような顔をしています。
 
忸怩: 当然の反応ですね。
 
ヨコシマ: おっと? ヤマトモ選手に以前では見られなかった動きが……思考に耽っているイトクリ選手から距離を取ろうとしていますが、あーっと! たとえ思案に明け暮れようともさすがはヤマトモハンターの猛者にして古強者。部屋の角に逃げられる前にヤマトモの頬を裏拳で殴る! 殴打の衝撃で首が捻じれ飛んだー! 物凄い威力だ! 首が落ちるだけでなく、四肢に鉛を有した肉体があちらこちらにリバウンドするー!
 
忸怩: クリーンヒットですね。まるでピトーにとどめを刺すゴンさんを連想させる殴りです。それにしてもヤマトモ選手、狡兎三窟……逃亡とは晩節を汚しました。
 
ヨコシマ: またしてもドアが自動的に開きますが、スキップボタンを押させていただきます。現場は再三再び、お題目が出された状況に戻りました。
 
忸怩: さすがに二度目……初回を合わせれば三回目の状態となると、両者、にわかにですがこの状況を把握しつつあるようですね。
 
ヨコシマ: そうですね。その証拠にヤマトモ選手に対してイトクリ選手は瞬殺せず、鬼のような形相で睨みつけています。これにはヤマトモ選手もタジタジ。ゆっくり距離を取り、命の懇願をしていますね。そして当然のことながら、イトクリ選手はネイルハンマーを取り出し、ヤマトモの意見に肉体言語。全力で否定しております。
 
忸怩: 面白くなってきましたね~。ここからどんなドラマが始まるのか、楽しみです。
 
ヨコシマ: ……ドラマですか。状況から考えるに、ドラマの種類でいえばサスペンスですが、今後月9のドラマのような展開になったりするのでしょうか?
 
忸怩: わたくし個人的には、長編スプラッターホラー映画にしかならないと思いますよ。しかもシリーズものの。
 
ヨコシマ: なるほど~。スプラッタやホラー展開を望むとは、我ながら百年河清を俟つ。両者の関係は一方的に千切っては投げ千切っては投げ、乾坤一擲、疾風怒濤、機略縦横に殺める攻めの姿勢とそして……金城鉄壁快刀乱麻を断つが如くヤマトモからの奇襲に驚天動地、背水の陣にならぬよう日頃からたゆまぬ練磨鍛錬しているイトクリ選手です。ヤマトモ選手に後れを取り殺され、嘲笑と共に後ろ指をさされるぐらいなら、彼は自決することでしょう。
 
忸怩: 備えあれば憂しいなってところでしょうが……おっと、知らない間にヤマトモ選手が死んでいるようですが、ヨコシマさん、スキップボタンを押さないんですか?
 
ヨコシマ: 勿論押しますよ。それにしても、雑草魂というかヤマトモ選手は [ヤマトモに好感の上がる発言をしたため、編集済み]
 
[一時間ほどの経過]
 
ヨコシマ: さて、相手を殺さないと出られない部屋、ヤマトモは様々な死に方をして、そろそろ佳境に入ってきました。いや~、見事でしたね。十回ほどスキップする頃合いになると、イトクリ選手もこの状況を前向きに捉え、積極的な動きを見せてきました。前から考えていた技を使っているのでしょうか、それともこちらを魅せるためか、ヤマトモ選手による毒物の早食い競争や針の筵でタップダンスなど、バリエーションが豊富です。
 
忸怩: 自死させた回は、饒舌に尽くしがたいものだったと思います。心理戦も得意なようですね。だげど、四十回にもなるとさすがに飽きてくるのでしょうか? ヤマトモの殺し方が単調かつ雑になっているような気がします。二十二回目の殺し方なんかは、一回目と同じでした。それはあまり美しくありません。
 
ヨコシマ: では、あと一回で終わりといきましょうか。お題目に『あと一回で出られる』と追記しておきます。さてどうなるか、賽は投げられた! ……おや、イトクリ選手とヤマトモ選手、お題目の追加文に気付いたようです
 
忸怩: イトクリ選手、殺る気が湧いて来たようですがおっと……! 攻撃力UP? どうやら、スターテスを徹底的に向上させて、有終の美を飾るつもりのようですよ。
 
ヨコシマ: スターテスアップは、ひとつだけに留まらない! 攻撃力UP、クリティカル、スピードUP、必中、クリティカル、攻撃力、スター集中、攻撃、クリティカル、クリティカル、即死UP、攻撃、攻撃、無敵貫通……目にも止まらぬ速さのバフ盛りだー!
 
忸怩: 恐ろしいですね。三十秒以上も経っているのにスキルアップが止まりません。攻撃用のバフ盛り全開ですが、防御系が一切ないところ一撃必殺を狙っているようです。イトクリ選手、この部屋から出られることが非常にうれしいようですね、ここまで張り切っている姿は見た事がありません。
 
ヨコシマ: 50秒ほど経過して、イトクリ選手のスターテス向上が止まったようです。対するヤマトモは、何一つ能力アップしないまま。ここまで来ると結果は一目瞭然です(笑)。
 
忸怩: 意外な展開としてヤマトモ選手による、予想外の反撃があるかもしれませんよ。もし、勝利を狙うなら初撃を避けたあとしかチャンスはありません。何せあれほどバフ盛りしていましたからね。パワーアップした分、肉体への反動も大きいでしょうから。
 
ヨコシマ: なるほど、確かにそれはそうですね……っとぉ、イトクリ選手、攻撃に出た! 一直線! 一直線! それほど広くない部屋ですが驚異的な速度でヤマトモ選手を追い詰め急接近し、最大の力をもって、相手の脳天に痛恨の一撃を繰り出したー! 1カメ、2カメ、3カメ共に、これほど見事な脳天直撃は見たことがない! 9999999999ダメージによるオーバーキルかーらーのー!
 
二人: 死体蹴り!
 
ヨコシマ: 見事です! 見事! 拍手喝采歓声を送らずして何を送るか! 恥ずかしながらわたくし、テンション高く、鼻息も荒くなっております。
 
忸怩: 非常に素晴らしいですね。さすがイトクリ選手。日頃からヤマトモ選手に優しくする人に「さてはアンチだなおめー」とクソみてえに憚かるだけのことはあります。
 
ヨコシマ: さて、第87回『〇〇をしないと出られない部屋』、終了条件達成と共に自動的に開くドア。イトクリ選手は迷いのない足取りで出入口に近づき、ドアノブを手にして、退室しました。今回の放送はいかがでしたか、忸怩さん。
 
忸怩: 端的に云うと、一番最初の瞬殺は驚きましたね。まずまず満足のいく結果であったと思っております。ですが、伝説と名高い三二回目の放送に比べるといささか物足りない感じがありますね~。
 
ヨコシマ: 厳しい評価ですね。我々の目が肥えていることもあってか、その批評は仕方ないのかもしれませんが、個人的には平均点は超えているように思われます。
 
忸怩: まぁ、及第点はあげられるでしょう。
 
ヨコシマ: えー、それでは第87回『〇〇をしないと出られない部屋』、お題目は『相手を殺さないと出られない部屋』、人選はイトクリ外科医とエージェントヤマトモ選手による中継をお送りいたしました。次回、第88回の『〇〇をしないと出られない部屋』の放映日は未定のままですが、次回、出会う時があればよろしくお願いします。
 
忸怩: よろしくお願いします。
 

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