こちらは、RP実施方法が決定される前に、外部ツール(Skype)を用いて実施されたものです。
ドラマ形式の1作目となるため、こちらのフォーラムにてご意見を募った後、特殊な例ではありますが掲載させていただきました。
最悪だ。大体いつもサイト-FS812は最悪だが、今日はとびきり最悪だ。Dクラスが脱走するわ、オブジェクトは収容違反するわで、サイト内はすっかりパニック状態だった。
実験助手の潮海冬真は、とうとう死ぬのか、もうあきらめるしかないのかとどこか他人事のように考えていた。
とりあえずオレンジ色ではない方の人の流れに乗ってみたが、エレベーターホールで人に揉まれただけだった。どうせ今更騒いだところでサイトはすっかり閉鎖済みだろうということぐらいは、しがない実験助手にも充分分かる。妙に落ち着いた自分に呆れて、溜息が出た。
機動部隊が鎮圧するまで静かにしていようか……そう考えていると、人の流れが変わった。揃ってもたもたしているうちにオレンジ共に挟み撃ちにでもされたのかと思って、少し流れに逆らって人混みの先を見ようと背伸びしてみる。まだ人の壁はたっぷりあるし……。
と、横に抜けられそうな道が見えた。不思議と誰も入っていかないし、出てこない。何が収容違反しているのか全く把握できていないのでろくでもない代物かもとは思ったが、人に揉まれるよりは1人でいたかった。「ちょっと失礼」と何回か言いながら、人混みを掻き分ける。何人か顔見知りが振り返った気がしたが、手を取って連れて行く気にはなれなかったのでそのまま通路へ進んで行く。
通路は薄暗かった……薄暗く今にも何か出て着そうな気がしたが、わざわざ人混みに引き返す気にもなれない。
「なんで電気ついてねーんだよ……」
苛立ちで思わず男言葉が漏れた。脱走する気満々ですっかり血気盛んに仕上がったDクラスに見付かったりしないよう、とりあえず曲がり角まで進んで行く。
曲がり角のところから誰か出てこないだろうか。そんな不安を抱きつつ覗き込むと、明らかにおかしい廊下が続いていた。薄暗いどころか真っ暗で、なんだかフロアの間取りと噛み合ってない気すらする。誰かいますかと大声を出そうとして、思いとどまった。不用心に騒ぐと碌なことにならないのは、パニック映画のお決まりだ。
結局潮海は壁を軽くノックしてみた。これで何か飛び出てくるなら、ここは潜伏先には使えない。内心ビクビクしながら耳を澄ませたが、何も音はしなかった。誰かが飛び出てくる気配もなさそうだ。
「ちょっとお邪魔させてもらうわよ……」
誰とも何とも分からない何かに気休めの声を掛けて、曲がってすぐのところに腰をおろした。喧騒がひどく遠く聞こえる。
……兎に角一息はつけた、何とか隠れられそうだ……。
廊下の向こうの騒ぎに耳を傾けてみたが、反響で何が起きている音なのか全く分からない。聞き取り問題に取り組むのは諦めて、代わりに怪しい廊下の観察をする。
この廊下はどうやらメンテナンスで使われる通路のようだ、機械音が聞こえてくる。聞き慣れた音だったら、少しはリラックスできるかもしれない。機械音に夢中になっている間に、いつの間にかそんなことを考えていた。原子吸光のバーナーの音だったらなぁ、と頭の中でひとりごちる。あれが一番お気に入りだ。
「~♪~♪ラーラーラー……ツッテーテーン♪」
不意に誰かの声が聞こえる、その声を聞いて体がびくっとした。誰かが来ている……!
反射的に立ち上がったが、そこで体が固まった。頭が真っ白で、どうしたらいいか考えがぐるぐる回っている。なんとか混乱する頭を抑えつけ、足を少しずつ後ろへ動かした。
後ろにまだ廊下はあるのだろうか?
ふっと、ここならばあり得なくもない考えが降りてくる。振り返らずにはいられなかった。
「イックシ!……あーさっぶ……」
確実にこっちに来ている……!どうする……!
とにかく、まだあった。まだ廊下はあった。なら、やることはひとつだけだ。
曲がり角を戻って、薄暗い方の廊下へ出る。そこで、さっきよりはっきりした喧騒を聞いて、一瞬で体の強張りが解けた。代わりに、何度も何度も冬真をここで痛い目に遭わせてきた好奇心が、頭をもたげる。
確かに言葉を発していた。オブジェクトなのかな?と。
そっと白衣の襟の録音装置をオンにして、ゆっくり振り返る。
「~♪~♪」
言葉を発しているどころか鼻歌まで歌っている……オブジェクトか?いや……脱走したDクラスか?
ジリジリと、廊下が曲がる方向と逆の壁にくっつく。相手より先に見付ければそれでいい、どうせならせめてひと目見てから逃げたい。
「……」
何も聞こえなくなった……嫌な予感がする……。
逃げろ逃げろと喚く理性をなだめすかしながら、ほんの少し、曲がり角に近付いた。ほんの少し……ほんの少し……。
(?)「何やってるの?」
突然後ろから話しかけられた、全然気配はなかったのに!
(冬真)「へあっ!?」
変な声が出たが、笑う余裕など全く無い。
(?)「えーっと……貴方何をしているんですか?」
この女……Dクラスが着るオレンジ色の囚人服、脱走した死刑囚で間違いないようだ。
(冬真)「い、いや、あんたこそなんで警備員無しでのうのうと歩いてんのよ!何やってんの!?」
録音装置をオフにしながら、なんとか虚勢をはる。Dクラスはマズい、運動音痴の自分には特にマズい。
(?)「んー……だって自由ですし、あ、貴方博士ですか?」
(冬真)「自由ですじゃないわよ、あんたら揃いも揃ってーー」
なんとか暴言を飲み込む。神経を逆撫でするのは得策ではない。大きく1回深呼吸してから、答え直した。
(冬真)「ええ、博士よ。潮海博士。」
あながち嘘ではない。一応博士号は取っている、ここでは外で取った肩書きなど大して役に立っていないが。
(?)「あ、じゃあ私お願いがあるんです」
少しかがんで潮海に話しかけてきた。吸い込まれそうな気がする……。
(冬真)「なによ」
思わず一歩下がる。
(?)「えーっとですね……えーっとですね……私今の騒ぎを抑えることができるんです、その自信があります!」
えっへんと言わんばかりに胸を張る。……何を言っているんだ?
(冬真)「いやに自信満々じゃない、頭大丈夫?」
いつものことだが、言ってから気付いた。さっきから緊張しっぱなしだったせいだろうか、1回目は最後まで言わずに止められたのに。
(?)「大丈夫ですよ?ケガしていませんし昔から丈夫ってよく言われます!」
またえっへんと胸を張る……。相手が全く意に介していないようで、冬馬は心底ほっとする。
(冬真)「そ、そう……それで、どうするの?」
(?)「えーっとですね、私がこの騒ぎを沈めたらDクラスからあげてほしいんです!」
……駄目だ、頭が痛くなってきた……。
二度も同じ失敗を繰り返すわけにはいかない。頬を叩いて、もう一度深呼吸してから、口を開く。
(冬真)「……そう、本当にできたら上に頼んであげないこともないけど」
(?)「わーい!その言葉忘れないでくださいよ!」
ピョンピョンその場で跳ねる。子供っぽい雰囲気があるようだ……悪く言えば言えば馬鹿みたいだ、というか馬鹿だ。
(冬真)「いいから、さっさと説明しなさい」
苛立ちを噛み締めるように、キレているというより威圧しているようになるよう、ゆっくり言葉を紡ぐ。
(?)「私が囚人たちをガーっと倒すんです!それで機動部隊の人たちが変なのを抑える!完璧な作戦です!」
あまりの楽観さに特大の溜息が出るが、何か引っ掛かる。
冷静に考えてみれば、これでうまくいかなくてもバカ騒ぎのせいでおバカなDクラスの死者が1人増えるだけで、特に損害は無いような気がしてきた。変にオブジェクトに関わろうとしていないあたりなど、自分がなんとかするより随分マシだとすら思える。
(冬真)「……やってみてくれない?」
(掃除屋)「むっふーじゃあ見ててくださいよ!あ、私は掃除屋って言われてます!突撃ー!」
まあ、惨たらしく死んでいく様を見る羽目になりそうだけど……。そう思うと追いかける気にもなれず、無言で見送った。オブジェクトには興味津々だが、別にグロテスクな風景に興味があるわけではない。
(掃除屋)「……」
ついて来ていないのに気付いたのかこっちを向いてドスドスとこっちに寄ってきた。怖い……!
(冬真)「なによ、付いて来いって言うの?」
今度は虚勢は半分だけ、残りの半分は本音だ。いくらDクラスとはいえ、目の前で死なれるのはとてもじゃないがいい気分とは言えない。
(掃除屋)「約束破られたら困りますからね!」
ひょいと片手で持ち上げてドスドスと歩いていく。まぁ上下に揺れる揺れる……。
(冬真)「ちょっと、下ろしなさい!下ろしなさいってば!」
そこそこ力を入れて背中を叩くが、ビクともしない。レスラーか何かだったのだろうか。
(掃除屋)「暴れますよー!」
・ ・ ・
カフェテリア
ついこの前までコーヒーを飲んでいた席がバラバラになっている惨状を見てまた頭が痛くなった。もう戻らないかもしれない……。
(冬真)「みんな居ないじゃない……どこ行ったんだか……」
騒ぎが遠くから聞こえてくるが、遠すぎて方向が分からない。いや、どこもかしこも大騒ぎなだけか?
(掃除屋)「それよりあれ見てくださいよ」
そういうと冬真を持ち上げてカウンター内を見せる。数人のDクラスが暴れているのが見えた。
(冬真)「うーわ、やってるやってる……」
結構大きい声で呟いてから、気付いた。下手なオブジェクトより恐ろしいDクラスが全員振り返る。強張った笑みを浮かべてみせるのが精一杯だった。
(掃除屋)「よっこいしょっと……ほーら皆ー折に帰る時間だよ、今なら怒られるだけで済むから早く戻ろうねー”掃除屋”が出る羽目になるんだから」
首と指をゴキゴキと鳴らす、それに掃除屋という言葉が出たとたん、何だかDクラス達が引いたように見えた。
肩から降りたほうがいい。直感的にそう思って思いきり抵抗してみたが、ものの3秒で諦めた。本当にビクともしない。こいつ、オブジェクトじゃないだろうな、と考えがよぎる。
Dクラス達はといえば、何かボソボソと相談を初めている。
(囚人A)「おい……どうするよ」
(囚人B)「やるしかねえだろ!」
ヒソヒソ……
冬真は段々頭が真っ白になっていくのが嫌になるほど分かった。もうすぐ叫びながら暴れるくらいしかできなくなるんだろうな、と他人事のように思いながら、もう一度必死に暴れてみる。
(掃除屋)「じっとしてないよ危ないですってば」
(冬真)「降ろせって……」
もう限界だった。勢いに任せて大声で怒鳴る。
(冬真)「言ってんだろうがあああああ!!」
ちょっとスッキリしたが、お陰で絶望的な状況がハッキリ分かるようになって、少し涙が滲んでくる。
(掃除屋)「うわわわ、もうどうしたんですか?」
相変わらずこいつは能天気な感じしか返さない。極力バレないように鼻をすすってから、どうにか言葉を返す。
(冬真)「あたしはあんたみたいに腕っ節強くないのよ……逃してよ、お願いだから……」
(掃除屋)「ー駄目ですここで貴方を離したらほかの奴らにやられます」
さっきとは全然違風貌を見せる。とても落ち着いているようだ。
(冬真)「じゃあ、どうすんの?」
不満を隠さない声色で問い掛ける。
(掃除屋)「貴方を護衛しつつ安全な場所につれていくしかありません」
(冬真)「安全な場所って?」
更に問い掛ける。思いっきり収容違反した以上はどこも危険だし外にも出られない、そんな状況で安全な場所なんて考えるだけ無駄だ。そもそも、そう思ったから多少は静かな場所で嵐が運良く通り過ぎないか待とうとしていたのに。
(掃除屋)「それは……わかりません、なんともいえませんね」
なんとも無責任な話だ、と溜息をつく。しがない実験助手の身では、開けられる扉もそう多くない。今なら尚更だ。
真っ先に思い付いたのは自分がメインで担当している研究室の自分の机だったが、すぐ却下した。一番オブジェクトが散乱しているであろう実験室に程近いエリアの扉が、開きっぱなしとは考えにくい。
それなら、どこならいいだろうか。実験室以下のクリアランスの場所で立て籠もるのは部屋の強度的にも得策ではないだろう。ならいっそ、立て篭もらずに……。
そうだ。立て篭もらないなら、行くべき場所がある。
必死に館内図を思い返す。機動部隊の駐在所はどの方角だったか。
(冬真)「……東、東階段に行って!降りて機動部隊と合流するわよ!」
(掃除屋)「りょーかい!さーあんたたち道を開けなさい!」
(囚人A)「掃除屋だって関係ねぇ!お前ら!やっちまえ!」
(冬真)「邪魔すんなぁぁッ!」
すれ違いざまに脚をできるだけ横に突き出す。掃除屋とやらの勢いも相まって、凄い手ごたえがした。おとなしくついてくるならまだしも、向かってくるなら仕方ない。この最悪の状況から逃げ切れるかもと思った瞬間から命が惜しくなっていた自分に、やっと気が付いた。
(囚人B)「うわっ!?このっ!」
(掃除屋)「甘い!」
囚人が殴り掛かってくる瞬間を狙って殴り飛ばしたり二人まとめて蹴り飛ばしたりして、どんどん蹴散らしていく。
(冬真)「そこ、そこのシャッターの右!壁にリーダーがあるから!」
階段だけは、手前の通路のシャッターさえ降りていなければクリアランス0でも開けられる。ポケットに留めてあったカードホルダーを手に取る。
(掃除屋)「……あぁダメですね、電源が落ちてます……」
(冬真)「んなまさか……」
カードリーダーの上のパネルをよく見ようとして初めて、実験用の度が低い眼鏡のままだったことに気付いた。しょうがないので身を乗り出して、目を細めてみる。
確かに、パネルにはALERTのAどころか何も表示されていない。
(掃除屋)「……吹き抜けはありますか?」
そう冬真に尋ねる。
(冬真)「吹き抜けねぇ……」
フロアの風景をざっと思い返してみるが、パッとは出てこない。カフェテリアと実験室ばかり往復しているせいだ。
(冬真)「カフェテリアの逆側だったら、あったかも……多分だけど」
(掃除屋)「じゃあ誰かが来る前にそっちに行きましょう、そっちから降りられます」
そういうとまた冬真を乗せて走り出す。
(冬真)「えっちょっと待って、ここ何階だと思ってんの!?」
一難去ってまた一難、こいつは少しも気を休ませないつもりなのだろうか。
(掃除屋)「何階でも関係ありません、飛び降りなければ死ぬだけです」
……本当にさっきなどとは全く違う風貌になっている、どうなっているんだ?
(冬真)「一体どうするつもりだか知らないけど、あんたもあたしもミンチになるのはゴメンだからね!」
遠回しにやめるよう言ってみたが、勢いは全く落ちない。やっぱり死ぬんだろうかと思うと、段々気が滅入ってきた。
掃除屋)「……見えてきました行きます!」
バッ!!
何も考えずに吹き抜けから飛び降りた!!
(冬真)「あああああああ!!」
自然と叫び声が出る。ああ、なんて惨めな死に方を……。
(掃除屋)「……!」
ガッ!ガガガガガ!ドンッ!
(掃除屋)「……ほら、地面につきましたよ?」
……壁に手をついたように見えたけど……その後どうやって減速したのか全くわからない……。
(冬真)「え?死んでない?」
素で掃除屋に訊く。何が起きたか理解するのにたっぷり5秒は掛かった。
(掃除屋)「死んでませんよ?」
当たり前のようにそう答える、何も変わらずに。
(冬真)「えーと……それじゃあ……」
妙に静まり返ったフロアをゆっくりと見回す。とても嫌な予感がする。
(掃除屋)「……誰も来ていないのでしょうか?」
(冬真)「とりあえずゆっくりあっち向いて、両手挙げよっか」
斜め後ろを見ながら、自分が先に手を挙げる。自分がやるのはおかしいんじゃとも思ったが、かといって手を降ろす気にもなれない。
(掃除屋)「え?」
掃除屋が見た先には機動部隊の面々がずらーっと並んでなおかつこちらに銃を向けている。
(冬真)「お、お疲れ様です……?」
努めてゆっくりとポケットに手をやり、カードケースを見せる。
(冬真)「あの、職員です……2人とも」
その言葉を聞いても何も動きがない。
(掃除屋)「……私の今の恰好じゃダメだと思います」
(冬真)「ていうかいい加減降ろしなさいよ、このポーズが一番怪しいってば」
カードを掲げたまま、足を軽く揺らす。
(掃除屋)「下手に動くと撃たれますって」
まだ下ろさない気でいるようだ。
(冬真)「降ろさないとあんたが撃たれるって言ってんのよ!」
精一杯小声で指摘した。下手に暴れると更に怪しまれるので、今更ジタジタする訳にはいかない。折角ここまで死体を拝まずに来れたのに。
(掃除屋)「わかりましたよ……」
ゆっくり、ゆっくりと冬真を下す。
両足が地面につくなり、冬真は弁明を始めた。せめて銃は下げて欲しい、横のオレンジの為にも。
(冬真)「あの、彼女がここまで連れてきてくれたんです。見てたでしょうけど」
一度言葉を切り、カードケースをぴらぴらと振って見せる。
(冬真)「正真正銘財団の職員カードです、確認してください!」
少し語気を強めて言ってみた。これで動かないならお手上げだ。いや、地面に伏せてみる手は残っているか。
その様子を見て機動部隊の面々は銃を下げた、どうやら信用されたようだ。
(冬真)「今どうなってるんですか?」
ケースをしまいながら訊いてみた。どこか救護室があるならそこに行きたい。掃除屋の脚が無傷かとても気になる。
(隊員A)「今SCiPを再収容中だ、スタッフの避難が先ほど終わったばかりだ。そっちは?」
(冬真)「えーっと……」
正直に言うべきか一瞬悩んだが、正直に言うことにした。どうせカフェテリアのフロアから一気に落ちてきたのは、大勢の機動隊員のカメラにしっかり記録されている。
(冬真)「あんまり人がごった返してたんで、ちょっと廊下に入ってじっとしてたんです。そしたらこいつが来てーー」
視線が泳ぐ。咄嗟に嘘をつこうとすると必ずこうなる。嘘は諦めた。
(冬真)「こいつが来て、この状況をどうにかしてやるとか言い出して。あとは担がれたまま連れ回されて、あなた方が今見た通りです」
(隊員A)「……そこのDクラスがか?そもそも脱走者じゃないか」
かなり怪訝な表情をしている……。
(冬真)「正直私も怪しいと思ってますけど」
銃を構えかける隊員を身振りで宥める。
(冬真)「とりあえず私のことは助けましたし、そこは考慮してあげてもバチは当たらないと思いますよ?」
(隊員A)「……わかった」
何とか落ち着いたようだ……。
(冬真)「ほらあんた、とりあえずこの人たちについてったら?」
いちいちこの説明をするのも面倒だと考え直し、さりげなく掃除屋と別行動しようとする。
(掃除屋)「いや、私は貴方についていきますよ、心配ですし」
どうやら離れる気はないようだ、まだ付き合わなければいけないのか……?
(冬真)「……彼女ずっとこの調子なんだけど、いいかな?」
殆どの機動隊員が自分とどっこいどっこいのクラスなのは分かっているものの、誰かに確認せずにはいられなかった。
(隊員A)「……まあ、いいでしょう。とにかく今は事を収める必要がある……我々はもう行きます」
(冬真)「いいですよね、はい、ご武運を」
少し隊員の背中を眺めてから、大事なことを思い出す。
(冬真)「あ、東階段閉まってるのはご存知ですか?なんかリーダーが死んでるっぽいんですけど」
(隊員A)「あぁ、どうやら電力が落ちているみたいでな復旧しないといけない状態なんだ」
(冬真)「電源からですか……」
協力を申し出たところで、自分のカードではどうしようもない。
(冬真)「どうりで点いてないわけですね」
さらっと流して、機動隊と逆の方向に歩き始める。
(隊員A)「おい!どこに行くんだ!?」
(冬真)「え、どこって……」
自然に機動隊と逆に進もうとしていたので、一瞬考えてしまう。
(冬真)「だって、皆さん今からオブジェクトの再収容とか、職員の回収とかするんでしょ?」
(隊員A)「いやしかし、君は避難した方がいいと思うが」
(冬真)「そっちに行ったら危なくないですか?」
首を捻ってみせながら言う。
(隊員A)「こっちは今抜けてきたところで障害は何もない、安全だ」
(冬真)「あ、そうなの?それじゃお言葉に甘えて」
スタスタと機動隊についていく。
(掃除屋)「お、それじゃあ脱出ですか?」
先ほどの真面目さはどっかに行ってしまったようだ……。
(冬真)「う、うん、まぁそうだね……」
あまりの軽さに拍子抜けしながら返事した。
(掃除屋)「で、で、で?いいんですか?昇格しますか?」
(冬真)「ええーっと、まぁ、まーそれはあれよ、ちゃんとこの騒ぎが収まったらさ、ね?」
例によってしどろもどろになったが、まぁこいつ相手なら大丈夫だろう。
(掃除屋)「えー、今じゃないんですか?」
ぷすーと頬を膨らませる、ますます子どもっぽい……。
(冬真)「今できるわけないじゃない、私が言ったらそれでおしまいってわけじゃないんだからさぁ」
恩があるのは事実だが、本当に昇格するのは物凄く問題があると思う。多分、何かご褒美でも出たらそれでおしまいだろうな、と勝手に想像した。
(掃除屋)「えーえーえー!何でー!何で―!」
……むかつく……。
冬真は大きく溜め息をついて、掃除屋の襟を掴んで引きずって行こうとした。
(掃除屋)「?どうしたんですか?」
が、忘れてた……こいつとの身長差を……これじゃあぶら下がっている形になる……!
(冬真)「とにかく!今は避難!」
結果的に胸の辺りを掴んで引っ張る形になった。なんだか自分の方が子供のようだが、危険な場所に居続けるよりはずっとマシだ。
(掃除屋)「あー……」
そのままずるずる引っ張られて行った……。
こうして二人は何とか脱出に成功し事態も無事に収束した、かくしてこのデコボココンビの二人の物語が始まったのである……
・ ・ ・