ジンボー・ストリートの外れ、ススキ野の広がる寂れた地域に突如現れるメガ・ストラクチャー群。
降りしきる重金属酸性雨の中、巨大サーチライトが白い外壁にオスモウフォントで書かれた「機密事項」「王冠」などの文字を照らしていた。
なぜこのような辺鄙な場所に巨大な建造物群が作られたのか?杜撰な公共事業の賜物か?
もちろん答えは否である。真実は恐るべき力を持った存在によって秘匿されている。
表向きはメガコーポによる巨大倉庫に過ぎない。
だが、周囲には周到に偽装された鳴子や、カカシに偽装した監視カメラなど、危険なブービートラップがひしめていた。
ただの倉庫であればこれほど厳重な備えは必要ない。秘密が隠されているのは言うまでもないだろう。
このマジノめいたメガ・ストラクチャー群は、さらに地下に張り巡らされた秘密の経路によって接続されているため、外から内部の様子を窺うことはできない。
はたしてこの鉄壁の城塞で何から守ろうというのか?
否、これは外からの侵入を防ぐものではない。中身を外に漏らさぬための守りである。
暗黒秘密結社、ザイダン・シャドーコーポレーション。それはこの世ならざる物から世界を守る壁。
厳格なプロトコルと膨大な物資によって築かれた影の城。
人類が信じるべきものを見失わないようにする道標だ。
「ドーモ、テイゾー=サン。サイト-893へヨウコソ!」
32工程に及ぶ確認作業を終えたテイゾーを、守衛が最敬礼で迎えた。テイゾーは中指を突き出して答えた。
「プロトコルに反します」「うるせーよ、ファックオフだ」
アイサツを無視した胡散な男はどこまでも続く白い廊下をうんざりした表情で見つめた。
「ファックオフ。どこも代わり映えのしねぇ所だぜ」「これも全て、厳格なプロトコルあってのことですよ」
現れた白衣の男に、あえて聞こえるようにテイゾーは舌打ちした。
「ドーモ」「ドーモ、テイゾー=サン、サイト責任者のインバキです。テイゾー査察員と言ったほうがよろしいでしょうか?」
「テイゾーでいい」「それはどうも。いやぁ、フランクな方ですねえ」
剣呑な視線を投げるテイゾーに対し、インバギは張り付くような笑顔を絶やさない。
「まぁ、型通りの調査なんで、協力してもらえればすぐ終わります」「もちろん、
私共はきっちりをプロコトルを守っています。なんせ、ここにはKETER級が収容されていますからな!」
テイゾーが短く鼻から息を吐き、コートのポケットに腕を突っ込み歩き出した。
「どちらへ?」「適当だ」
「まぁまぁ、お待ちください。お客様に粗相があったら大変です!私の助手のアシカワを連れて……」
「うるせぇ、ていのいい監視役だろ?そんなもんいらねぇよ!それより警備主任に合わせろ、ASAPでだ」「よ、ヨロコンデー!」
インバギは虚無的な笑顔でテイゾーを見送った。
サイト-893の中枢とも言える警備モニター室は旧型だが強力なUNIXメインフレームがイゴゲームめいて並び、緑の光を放っている。
部屋の中央には畳20枚分はあろうかという巨大なホログラム・モニターが浮かび、施設内のあらゆる場所を監視していた。
「ドーモ、ダイスケ=サン」「ドーモ、テイゾー=サン」「警備主任」の腕章をかけたダイスケは剣呑にテイゾーに歩み寄った。「
久しぶりだなダイスケ=サン、太ったか?」「お前のほうこそ」二人は互いに握手をしあい、肩をぶつけあった。
「ユウジョウ」「ユウジョウ!」一通りの再会プロトコルを終え、テイゾーが周囲を訝しみながら切り出す。
「あいつ、クロだと思うか?」「インバギ=サンの事か?ああ、まぁただの勘だがな。どうもあいつは妙だと思う」
「証拠はつかんでるか?」「いや、だがやつの個室にあるUNIXに答えがあるはずだ、やつにしか入れない」
「俺のクリアランスレベルでもか?」「入るには事前に通告が必要だ、その間に証拠を隠される」
「なるほどな…… つながってるのはどこだろう?」「GOCだ、それしかないだろう」
読者の皆様ならばGOCの名に覚えがある事だろう。ザイダンの存在を陰とするならば彼らは陽の存在である。
超常なるものを保護し、隠すザイダンに対し、GOCは超常なるものを破壊し、消滅させる。
互いに相反する理念を持ちながら、目的を同じとする2つの組織は互いに牽制しあい、半目していた。
もしもいちサイトの責任者がザイダンを裏切り、GOCの元へと走ったら?絶対的機密が破られればザイダンにとって途轍もなく大きな問題となるのは明白である
そのためにザイダンは定期的に各部署に査察官を送り込んでいたのだ。
「アー、ドーモ、査察員=サン」「テイゾーでいい」
「研究主任のアラザキです」「ドーモ」
「副主任のマエハラ・アイです」「ドーモ」
「主任助手のクシマです」「ドーモ」
ヤッピーめいたスーツのアラザキに対して二人は研究員らしく白衣。クシマ助手の胸は特に豊満だった。
「クシマ=サンの事見すぎよあなた」「ち、ちげぇ!」「いやらしい」「ちげぇ!」
「ちょっと、ヤメロ」「はい、あなた」「おいまさか、マエハラってお前ら……」
「そうよ、私とダイスケ=サンは夫婦よ。マエハラ・アイとマエハラ・ダイスケ」
「ブッダ!なんてこった!」
「そんなことよりも、SCP-076の様子を見にきたのではないですか?」「ああ、そうだった。あいつはちゃんとカンオケで大人しくしてるのか?」
「ええ、もちろんです。三重のアンタイ・ニューク隔壁を破ることなど不可能!確保!収容!保護!われらが美徳です!」「ハッキングされる可能性は?」
「インポッシブル!ここは外部ネットワークからは隔離されています。万が一何かあれは全隔壁が閉ざされニュークが爆発。そうですね、ダイスケ=サン?」
「ああ、プロトコル通りだな。ところでアラザキ=サン、D-クラスの待遇改善の件はどうなってる?」「もちろん!滞りなく!」
アラザキの片腕はサイバネ化されており、備え付けられたキーボードをタイプするとホログラムモニター映像の一部が変わり、オレンジ色のツナギ・ハカマを着せられた人々が作業に従事する映像に変わる。
皆一様に笑顔で活発に作業しているようだった。
「ふーん、ま、問題なさそうだね」「ええ!みなシャカリキで働いております。これも全てザイダンのおかげですねー!」
「へぇ、シャカリキね」「言葉のあやです!もちろん、かつて使われていたような薬物は今は一切使われておらずクリーンです!」「まぁ、ゆっくり見させてもらうわ」
◆
「母前後!」サイト-893では珍しい、コーカソイドD-クラスであるコールマンはナメクジめいて床に這いずった。「コーベンっコラー!スッゾオラー!」
手に手に警棒を持った看守達がコールマンを囲んで叩く。「グワーッ!」「スッゾ!」「グワーッ!」なんたる権力を傘に着た無慈悲な集団暴行か!
「まぁそれくらいにしておけシトオミ=サン」「俺はこういう反骨者をいたぶるのが好きなんだ」「やりすぎると実際死ぬ」同僚に止められた横暴看守はコールマンに痰を吐きかけるとその場を去った。
「やってくれるぜ」口から血を吐き出すと頭を振って立ち上がる。そして呼吸を整えた。
コールマンは背が高く、日焼けした浅黒い肌にはドラゴンと鷹のタトゥーをしている。重犯罪者の集うこのD-クラス区であってもその容貌は目を引いた。
コールマンは配属された直後に看守に口答えしたために囲んでボーで叩かれたのだ。
ザイダンにとってはD-クラスは「資源」とみなされている。死刑の決まった重犯罪者とはいえこれほどの仕打ちは本来許される事ではない。
しかしテイゾー達が見た映像ではみな笑顔で作業をしていたはずだ。一体何がこの地下施設で行われているというのか?
「酷くやられたなぁ」「それほどでもありません」看守達の目を盗み、近寄った老人にコールマンが抑揚の無い声で答えた。
コーカソイドであるコールマンは脳内にインプラントされたサイバネ素子を用いて日本語を話しているのだ。彼の日本語が奇妙なのはそのためである。
「貴方、この施設はなんですか?」「さぁ、誰も知らない。だが刑務所じゃねぇのは確かだな。ここは実際それ以下だ」コールマンは顎鬚を撫で思案した。
「職業は何をするでしょう?」「職業?ああ、仕事か。色々さ、荷物運びだの掃除だの、ヌレセンの製造だのな。」「ヌレセン?」「そうだ、違法のな」
「それは神聖なたわごとです」「戯言なんかじゃねぇよ。本当に違法ヌレセンをここで作らされてるんだ」
ナムサン!ヌレセンとはバイオ米を精製する事で作られる危険な薬物である!精製過程に置いて人体に有害な物質を出すため違法とされた代物だ。人権を無視した非人道的強制労働である!
「そのような事が許されますか?」「許されねぇ。もう何十人も死んでる」コールマンは老人の言葉に不穏なアトモスフィアを感じ取った。
「貴方、何か課題がありますか?」「そうだ、計画がある。お前にも一口乗ってもらうぞ?」
「難点はありません」「よし、お前は強そうだから先頭に立ってもらうぜ、俺の名はミヤジマだ。」「コールマンです。」「これで俺たちの仲間だ、よろしくなコールマン=サン」
「ヨロシクドーゾ!」「さぁ、食堂に行こうじゃないか、皆に合わせてやろう」「ヨロシクドーゾ!」
D-クラスたちが押し込められていた地下収容施設は美しく磨かれた上層とは違い、配管などが剥き出しで不潔な場所だ。
数メートル置きに「クリーン治験活動」「優しい笑顔」などの欺瞞ポスターが貼られている。
やがて二人は数十人のD-クラスが集う大きな広間に出た。
「新入りのコールマン=サンだ!」いかめしい顔付きの男達の視線が一斉に注がれる。D-クラスたちのは凶悪な死刑囚だ。
コールマンよりさらに背の高い、全身にヨコヅナ・タトゥーを施したスモトリは通称イシガントー!体重200kgを超え、巨体を使った連続圧殺犯!IQ70!「ノコタノコター!」
長い顎髭の男はペイガニストで寺院への連続放火事件で逮捕された通称テンプルバスター!IQ75!「俺はディジタル・オーディンだけを信じている」
そして部屋の隅で1人、チョークで描いたキーボードをタイピングするのは軍施設に進入して捕まった元テンサイ級ハッカーCKILLだ!IQ200!
「新人!こっちに来い!」スモトリが叫び声を上げた。にわかに剣呑なアトモスフィアが立ち込める。
人垣のように集まる凶悪囚人達を、コールマンは臆することなく睨み返し、歩き出した。
◆
「実際どうなんだダイスケ=サン」「どの話だ?」「ヨメだよ」「ああ、アイの事か」「なんだよ、浮かない顔だな」「ちょっと、今私の話したでしょ」「アイエッ!」
「ちゃんと査察してよ、テイゾー=サン」「何か知ってるか?」「どうもあのインバギ=サンとアラザキ=サン、やたら羽振りがいいのよ」
SCP-076の収容設備へ向かう途中、「憩い場」とショドーされた個室で三人は寛いでいた。収容設備の再点検が終わるまでここでしばらく待つのである。
「急に金を手に入れた奴の行動は大体わかる」「金とオイランか」
「それより気がかりなのがD-クラス達よ」「何か知らないのかダイスケ=サン?」「そこが問題だ。地下に居るD-クラスの管理は俺達の管轄外になってるんだ。
さっきの映像、あれは明らかに異常だ」「そうだな、気味の悪い笑顔だった」「何か裏があるな」
「地下にアクセスできるのは?」「D-クラス管理職員以外だと、インバギ=サンとアラザキ=サンだけよ」「やはりその二人か」「そろそろ怪しまれる、行くぞ」
三人がベンチから腰を上げたその時だった。「ピガー!ピガー!重点!重点!収容区域に重大な違反な。」けたたましくブザーが鳴り響く!
「オイオイオイ、なんなんだ畜生!」「収容違反!?まさかSCP-076が?」「一体何があったのよ!?」
時を同じくして、陰惨な地下収容施設でコールマンは目覚めた。「ジーザスクライスト!何だ一体!?」大勢いた囚人達の姿は無く、薄暗い廊下で一人だった。「出し抜かれたぜ!」
一体サイト-893に何が起こったのか?それには少し時を巻き戻す必要がある。
◆
地下収容施設のD-クラス用食堂に歓声が響く。「はははは!久しぶりの新入りだぜ!ドーモ、俺はイチバキってもんだヤクザ抗争で捕まった」
「俺はミカノだ首相専用機をハイジャックした。」「ドーモ、貴方達、私はコールマンです。」次々とD-クラス達がアイサツと握手を求めてくる。
D-クラス達は支給品の「微粒子」で祝杯を上げた。これは週に一度だけ支給される飲料水で、普段飲まれる水道水よりはるかに高級な嗜好品だ。
「なぁあんた、一体何をやってここに入れられたんだ?俺たちは皆死刑囚だぜ」「人を殺しました」「俺もだぜ!」「ネズミが見える」
「そんなのはここじゃゴマンと居るぜ、何人だ?5人?」コールマンは小さく首を降る。「10人か?」コールマンは小さく首を降る。
「おいおい、こいつは飛んだサイコ野郎だぜ!やるなあんた!」囚人達が次々にコールマンの肩を叩く。動物めいた親愛行動だ。
「面白いもん見せてやるぜ、こっちに来いよ」ミヤジマ老に促され、コールマンが窓際に寄る。「向こう側の窓の連中だ。見てみろ」
その先には廊下をモップで掃除するD-クラス達、それを撮影するケンドーロボが続く。奇妙な光景である。何故ただのモップ労働にカメラが必要なのだろうか?
「やつらの顔を見ろ」Alas!強制労働するD-クラス達は皆空虚な満面の笑顔である。この労働を彼らは進んで行っているというのだろうか?
「ヌレセンだ。あれを作る時にでる笑気ガスのせいであんな顔になっちまってるんだ」
ナムサン!カメラ撮影は欺瞞映像を流すためだけに使われているのだ!
「神前後!なぜそれが許されますか?」「そうだ、ゆるされねぇよな」ミヤジマが老獪な笑みを作る。
「なぁコールマン=サンあんたサイバネしてんのか?」「はい、少ししています」「なるほどなぁ。へっへっへっ、そいつはいい」「ナンデ?」「いやいや、こっちの事さ」
「このままじゃ早晩、俺達も仲間入りだ。ここはただのムショじゃねえ」「なぜそんな事がいえますか?」「ったりめぇだろ!どこに囚人に違法薬物を作らせるムショがあるんだ。俺ぁあちこち渡り歩いてきた」
「ミヤジマ=サン、貴方、刑務所破りを?」「へっ判ってるじゃねぇか、俺は脱獄王なんだぜ」
「刑務所破り王?」「そうだ、アバシリもフチュウも抜けだしてやった」「それでこちらの糞に入れられましたか」「まぁそういうこった。なぁ、あんたも相当なカブキモンなんだろ?だっらよ、一つ俺らと大博打を打たないか?」
「スラングを理解しません。私はギャンブルが苦手です」
「まぁ慎重になんのも仕方ねぇがよ。だが実際、このままじゃネズミ袋のカンオケ行きだぜ。いいか、俺には計画があるんだ。それにはあんたの協力が必要だ。」
気がつけばイシガントーを始めとした凶悪犯達が二人を威圧的に取り囲んでいる。
「……話を聞きます」「そうだぜ!そうこなくちゃな!」
「普通にここを抜け出すのは不可能だ。だがここは何でもシステム頼りだ。そこに付け入る隙がある」「警備は強固です」「ああ、ここは地下で、外にでるルートはいつも閉まっている。
看守が少ないのは意味がないからだ」「ではどうしますか?」「頭を使うんだよ。システムを動かしてるのはなんだ?ん?」
「ハッキングを?」「そうだ、冴えてるな!こういう所は内側は案外もろいもんだ。それにこっちにはテンサイハッカーが居。」
ミヤジマ老が一心不乱にペイントキーボードをタイプし続ける男に顔を向ける。「ああ見えても腕は超一流だ」「それよりもどうやってハッキングを行いますか?」
コールマンの疑問は最もだ。たとえどんなに優秀なハッカーであろうと、ネットに接続されたUNIXが無ければ猫にコーベインというものである。
「あるんだよ方法が……付いてこい、静かにな」二人はしめやかに部屋を抜け、薄暗い地下通路を歩き出す。「おい、何をしてるお前達」ナムサン!看守だ!
「新入りの案内だよ。さっさと慣れてもらうためにな」「ふん、後二時間で消灯だぞ。時間厳守!」「ヨロコンデー」
看守を欺いた二人は狭い猫走りを抜けて進む。「行き止まりです。」「そうだな、だがここを見ろ」コールマンが目を凝らす。頭上を走る配管の一つが腐食し、配線が剥き出しになっていた。
「この配管にはヌレセンの汁が少しづつ流れてるんだ。そのせいでこうなった。ブッダオハギってもんだぜ。」太く、頑丈そうなケーブルには「ネットワークな」と但し書きがなされている。
これは施設のネットワーク回線ケーブルに違いないであろう。
「これを繋ぐのですか?UNIXは?」「こいつだ」ミヤジマ老の手には汚れた古いハンドヘルドUNIXの電源を入れた。ピポボッ。
「このガラクタじゃファイヤーウォールをこじ開けられない。処理速度の問題だ」「それで、どうしますか?」「だから、頭を使うんだよ。あんたのサイバネをバイパスするんだ」
「危険行為です!」「危ない橋を渡るのはお前だけじゃねぇ、失敗すれば全員ヤバイんだぜ!」「断ります」「そうはいかねぇ」
「お前ら!やっちまえ!」コールマンの背後かイチバキが刃物で襲い掛かる!アブナイ!「俺様はカラテ20段だぞ!死ね、コールマン=サン!死ね!」
だがその一撃は外れ空を切る!「イヤーッ!」「グワーッ!」コールマンのチョップがイチバキの首筋に命中!失神昏倒!
「ウオーッ!」次に現れたのはヌンチャクを振り回すD-クラス!「イヤーッ!イヤーッ!」目にも留まらぬ速さで手製のヌンチャクを降る!アブナイ!
「イヤーッ!」慎重かつ冷静に動きを捉えたコールマンは一瞬の隙を付き、掌底を浴びせる!「グワーッ!」タツジン!ヌンチャクD-クラスは失神昏倒!
「ドッソイ!」「グワーッ!」だがしかし真横から強烈なハリテを喰らい、コールマンの体が吹き飛ぶ!あれは、全身にヨコヅナ・タトゥーを施したスモトリ、通称イシガントー!体重200kg!
「ドッソイオラー!」イシガントーは大きく息を吸い込み、威圧的にソンキョの姿勢を取る!
「ノコタノコタノコター!」「グワーッ!グワーッ!」さらにイシガントーは猛烈なヨリキリでコールマンに迫る!恐るべき質量の暴力!
インパクトの瞬間、コールマンは壁まで吹き飛ばされ、したたかに頭を打ち付けた。頭を抑え、ヨタヨタと立ち上がろうとするが足が震えて力が入らない!
「いよっしゃぁ!キマリテ!キマリテだイシガントー!」興奮したミヤジマ老が叫び、イシガントーが両手を掲げる。
狂った男の目には満員の国技館の聴衆と、神聖な花吹雪が見えていた。イシガントーは本物のスモトリには成れなかったが、その精神は常にドヒョウ・リングの上にある。
「イヤーッ!」だがコールマンはその一瞬の隙を見逃さ無かった。ロケットめいて飛び出すと背後からチョークをかける!
「ドッソイ!」不意をつかれたイシガントーはコールマンを振りほどくべく暴れまわる!しかしほどけぬ!「イヤーッ!」「グワーッ!」コールマンはさらにその腕に力を込めた!
「ドッソイ!」イシガントーはコールマンを振りほどくべく暴れまわる!しかしほどけぬ!「イヤーッ!」「グワーッ!」コールマンはさらにその腕に力を込めた!
「ドッソイ!」イシガントーはコールマンを振りほどくべく暴れまわる!しかしほどけぬ!「イヤーッ!」「グワーッ!」
「ドッソイ!」イシガントーはコールマンを振りほどくべく暴れまわる!しかしほどけぬ!「イヤーッ!」「グワーッ!」コールマンはさらにその腕に力を込めた!
「ドッソイ!」イシガントーはコールマンを振りほどくべく暴れまわる!しかしほどけぬ!「イヤーッ!」「グワーッ!」
「オゴーッ!」ついにその巨体が膝を付き、ぐったりと動かなくなる。コールマンは肩で呼吸を整えるが足取りがおぼつかない。「ちくしょう、なんて野郎だ!」
ミヤジマ老がコールマンの顔に汚れた布を押し付ける!「グワーッ!笑気毒!」ナムサン!その布には有害なヌレセンタールが染みこんでいたのだ!
◆
「ピガー!ピガー!現在、収容違反下な!全ての隔壁は閉鎖され、ニュークの起動が行われますドスエ。カラダニキヲツケテネ!」
絶望的マイコ音声放送がサイト-893に響き渡る。「クソッ!何がどうなってるダイスケ=サン!?」「どうやらハッキングを受けたようだ、収容隔壁も全部オープンにされた!」
「一体どうやって!?」「わからん、お前達は出口に向かえ!俺は職務を果たす。クソをカンオケに逆戻りさせてやるぜ。」「私もやるわ」「だめだっ、お前は逃げろ!」
「どうせ隔壁は閉じてて、このままじゃニュークで吹き飛ばされるのよ!?」「その通りだダイスケ=サン、どこにも逃げられない」
「クソッ、だがアベルは俺に任せろ、お前はニュークを止めるんだ。わかったな?」
「俺も行くぜ」「仕方ねぇ、頼むぞ!」3人は二手に別れ、走り出した。周囲は走り回る職員達と警備員達のケオス。
「ウオー!」さらにそこに脱走D-クラスの集団が加わり、アビ・インフェルノの様相を呈していた!
「「「ウオー!エクソダスッコラー!」」」脱走D-クラス達が職員や警備員に殴りかかる!「収容!確保!保護!」
警備員が応戦!アーク放電警棒で脱走D-クラスを打ち据える!「グワーッ!」「確保!」「グワーッ!」
武器を持たぬD-クラス達は次々と捕らえられるが数が多い!
「おい、ミヤジマ=サン、ニュークなんて聞いてないぞ!」「俺だって知らなかった!今はとにかく逃げるんだ!」「ザッケンナコラー!」
イチバキが、ミヤジマ老を殴りつける!「グワーッ!」枯れ枝めいた老人の体はくの字に折れる。「お前に着いていったばかりにこの様だ!」「グワーッ!」さらに蹴る!
「グワーッ!グワーッ!」元ヤクザアサシンであったイチバキは自らけじめさせた指を持ち歩くほどのサディスト!
執拗に老人の痩せた体を蹴りつける!「ハハハハハ!くたばれクソジジイ!ア、アア?」イチバキは体が持ち上がるのを感じた。そして胸から突き出した刃物を。「アババー!?」
イチバキは振り返ろうしたが体が動かない。何か恐るべき力で体が持ち上げられ、ケバブめいて串刺しにされているのだ。
突然の事にイチバキの考えは追いつかない。一体何が起きた?なぜ自分は死んでいるのか?視界が暗くなり、もはや考えることすら出来なくなっていった。
もはや物言わぬゴアと成り果てた死体を、巨大な人影がゴミのように剣からほうり捨てる。7フィート近い巨大な影は失神したミヤジマ老には目もくれず、長い廊下を歩いていく。
その背後には無数の警備員の死体が積み重なっていた。
「くそっ!インバギ=サンはどこへいった!?」「応答ありません」「アラザキ=サンは?」「やはり応答ありません」「ブッダファック!これを片付けたら絶対に償わせてやるぞ!」
警備員司令室にたどり着いたダイスケは防弾ケンドーアーマーに着替え、装備を整える
「SCP-076は今どこにいる!?」「あと3分ください!」「1分でやれ!全員ケンドーアーマーを装着して俺に続け!」「SCP-076、現在区画49に向かっています!」「なんだと!」
ダイスケは愕然とした、区画49はニューク起爆装置があるエリアだからだ。今まさに妻であるアイが向かっているのだ!
◆
小鹿めいた足取りで一人のD-クラスがケオスの廊下を歩いていた。見上げた壁にはで何かを暗示するかのように「49」とショドーされている。背後からは悲鳴と爆発音が断続的に聞こえてくる。
「畜生、やってくれたぜあのジジイめ」脳インプラント装置をオフにしたコールマンは日本語でつぶやいた。
ヌレセンタールを吸い込み、失神した彼は何とかこの区画49までたどり着いた。しかしここは厳重なセキュリティがしかれている場所でもある。「確保!収容!」
突如真横のフスマが開き、警備員が飛び出してきた!アブナイ!「イヤーッ!」ケイボーの一撃はコールマンの顔をかすめ、壁にひび割れを作る!
「大人しくしろ!私は保護を尊重しない!」振りかぶった一撃をワームムーブでかわす!「ファウンデーション!」しかし警備員は転がるコールマンの頭をブーツで蹴り上げる!
「グワーッ!」キックオフ!「ははは!止めをさし、グワーッ!?」突如警備員の体が持ち上がり、やおら壁に叩きつけられる!
「フシュルルー!」警備員を投げつけ、絶命させたのは全身にヨコヅナ・タトゥーを施したスモトリ、通称イシガントー!体重200kg!
コールマンに敗北したイシガントーは怒りに我を失っている、コワイ!「ドッソイオラーッ!」「グワーッ!」コールマンが張り手の一撃で吹き飛ばされる!
続く死闘に、もはやコールマンの体は耐えることができなかった。迫る巨体を前に、意識を失いかけたその時!「キエー!」突然のカラテシャウトに意識が戻る。
「おい、コールマン!何やってんだ!」コールマンの体を起こしたのはテイゾーだ!だが何故D-クラスであるコールマンをテイゾーが助けたのか?
「何じゃねぇよ、お前の指示だろ。俺にD-クラスとして潜入しろって言ったのはよ」したり、D-クラス、コールマンは仮の姿であり、彼はれっきとしたザイダンのエージェントだったのだ!
「キェー!」「グワーッ!」その背後でイシガントーが膝をつく!「お、おいアイツは誰だ」「ああ、アイ=サンだ。研究副主任でダイスケ=サンの女房の」
「アババーッ!」恐るべきカラテをうけ、イシガントーの巨体が崩れ落ち、動かなくなった。数発のカラテで凶悪スモトリを倒したマエハラはザンシンを決めた。
「感動の再開は後にして、ニューク起爆装置を止めるのよ」「アッハイ」KABOOM!三人の背後で爆発音!
「しまった!」頑丈な対爆カーボンフスマが紙切れの様に吹き飛ばされ、長身痩躯の男が現れる。その手には超自然のカタナ・ブレードが握られ、全身にマントラめいたタトゥーが施されている。
「SCP-076-2!アベル!」怪物は三人の姿を捉えると、緩徐な動作で向き直る。「Gruuu……」
マエハラは後ずさった、背後にはテイゾーを肩を抱えられたコールマン、そしてニューク制御室への扉。万事休すか。
「テイゾー=サン、拳銃ある?」「ああ、だがもうニ発しか弾が無いぞ。」「十分よ、貸して。あいつの注意を引くわ」「おい、バカな真似は…」言い終わる前にテイゾーは銃を奪われる。
「アイエエエエ!コワイ!」そこに偶然現れたD-クラスがアベルの姿に恐慌し、失禁した。
世間一般の常識ではSCPはドラゴンのような伝説上のモンスターであり、それが現実として目の前に現れその圧倒的な力に蹂躙されるという有り得ない状況にショックを受けてしまうのだ。
それがSCPリアリティ・ショックであり、財団職員のように普段から耐性を持たない者には死の危険すらある現象である。
「今だ!」アベルの注意がD-クラスに向いた一瞬の隙を突いて、マエハラが銃撃する!BLAM!BLAM!「AAARGH!」しかしアベルは弾丸を超自然ブレードで弾き、叫ぶ。
殺意を具現化させたかのような視線がマエハラを射抜く。ここで屈してはならぬ!マエハラは己を叱咤し駆け出した。
ニューク制御室とは別の方向へ、走る、走る!「無茶しやがる!おい、立てるかコールマン=サン」」「ピガーピガー!ニューク起動まであと5分ドスエ」「まずクソニュークを止めるぞ」
痛む体を強いてコールマンとテイゾーは走り出した。急がねばならぬ!ターンッ!テイゾーが勢いよくカーボンフスマを開く!
その奥にまたフスマ!ターンッ!テイゾーが勢いよくカーボンフスマを開く!その奥にまたフスマ!なんたる堅固な多重セキュリティ!
「どうなってんだこのクソ施設は!」「妙だな、普通だったらセキュリティがついてるんじゃないか?全部解除されてるぞ」
「ハッキングされたんだ」ターンッ!テイゾーが勢いよくカーボンフスマを開く!ついにそこに「ニュークの制御」とショドーされた部屋が現れた。二人はしめやかに部屋へと入る。
周囲には巨大なUNIXメインフレームが碁盤目状に並び、その中央には暗いままのモニター。「おい、所でテイゾー=サン。あんたこいつの止め方知ってるのか?」
「知る訳ねぇだろ!」「どうすんだよ!」「お前もかよ!?技術者を呼ぶ時間は無いぞ」「とにかくどうにかなんとかしろ!……ん?」
その時、モノリスめいて並ぶUNIXメインフレームの影に何かを動くものを見たテイゾーは慎重に足を進める。
「おい!そこに誰かいるのか!?出てこい!」「ア、アイエエエ!居ません!」影からまろび出たのはミヤジマ老と腕に描いたキーボードをタイプし続けるCKILLだ。
「なんでこんな所にいやがんだてめぇ!」「アイエエエ!こんな所で死にたくない!」「待て、テイゾー=サン。こいつらはヌレセン工場で働かされたたんだ」
「ヌレセンだと?」「詳しいことは後で話す、そこのCKILLはハッカーだ、そいつにやらせよう」
「アー、あの、コールマン=サン?」「なんだ?」「あ、あんたちゃんと喋れたのか?」「ありゃ全部演技だ。俺はザイダンの職員なんだよ、悪かったな」
「お、俺たちは殺されるのか?」「いや、そうはならねぇよ。だからさっさとやりな」「ヨロコンデー!」「素早い茶色の狐が怠惰な犬を飛び越す……」
◆
「GURRRR…」獣じみて呻きながら大股でアベルが迫る。マエハラは振り向くことなく全力で走り続ける。だがアベルがハヤイ!
咄嗟にマエハラは壁に掛けられた消火器を外し、ハンマー投げめいて放る!「AAARGH!」ブレードが消火器を破壊!周囲は赤みのかかる粉塵に包まれた。
策の成功に気が緩んだか、足が遅れる。だが怪物は甘くはない。「AAARGH!」床を蹴り、一足飛びに粉塵を巻き付けながら迫り来る!
風を切り裂く音が聞こえ、前髪が宙を舞った。コンマ数秒の反射的判断だ。マエハラは幼い頃よりカラテを修めていた。だからこそ、圧倒的なカラテの違いを感じていた。
「ア、ア、」叫びを堪え、背を見せて再び駆け出す。しかし、その背にブレードが一閃する。「ンアーッ!」
無情に白く塗られた壁に鮮血が舞い散った。怪物が迫り、憎悪のツルギを大上段に構えた。マエハラは死を覚悟した。
周囲を流れる主観時間が泥めいて鈍化していった。
近づく刃。一撃、二撃。もはや避けきることは敵わぬ!その時!BRATATATA!「AARGH!」銃撃!ケンドー装甲を着たダイスケがマエハラとアベルの間にインターラプト!
「アイ!逃げろ!」「GURRAHH!」クロスした装甲腕でブレードを止める。火花が散り、徐々にケンドー装甲が軋む。
「嫌ぁ!ダイスケ!」「いいから逃げろ!俺に構うな!」悲痛な叫びは叶うことは無かった。無情にも憎悪の刃はケンドー装甲を貫き、ダイスケの体を切り裂いた。
「アバーッ!」スローモーションで血飛沫が舞い散った。マエハラはダイスケの瞳を、ケンドー装甲越しに見据えていた。
濁りなきダイスケの目に、止めの死の剣が映し出される。その時!KA-BOOOM!爆発が起こった。
ダイスケに続いた警備部隊がヤバレカバレの攻撃に出たのだ!突然の爆発にアベルがよろめく。ああ、だがしかし……
ナムアミダブツ!致命的な一撃に際し、ダイスケはマエハラをかばい、倒れこんだ。ケンドー装甲が朱に染まり、しかしダイスケは満足な笑みを浮かべていた。
「ダイスケ……」「アイ……」ケンドーメン越しに顔を撫でる。そのままダイスケは目を閉じ、動かなくなった。おぉ、ナムアミダブツ……
KA‐DOOOOOOOOOOOM!二度目の爆発。「畜生!間に合わなかった!」警備隊を引き連れたテイゾーが歯噛みした
。ニューク装置をすんでの所で停止させたテイゾーとコールマンはすぐさま駆け戻り、途中で警備隊と合流したのだった。
だが目の前でダイスケとアイは凶刃に倒れ、粉塵の中に見えなくなった。全て遅すぎたのだろうか?これまでの努力は水泡に帰したのか?
立ち込める砂埃の中から巨大なシルエットが現れた!あの爆発を持ってしてもアベルは無傷!「GURRRAHHHH!」怪物が怒りに震え吠える!
「Wasshoi!」粉塵の中からもう一つの人影がエントリーした!血で汚れた白衣の下に赤黒い装束。
メンポには禍々しい書体で掘られた「罪」「断」の二文字!その両腕には微かに息をするダイスケが横たえられていた。
謎のエントリー者はダイスケの体をテイゾーに託し、「彼を頼む」と一言だけ言った。
「ドーモ、SCPコンテナーです。」エントリー者が決断的にアイサツする。「GHUUU…… ドーモ、エスシーピーコンテナー=サン、アベル・ニンジャデス」
「お主の名はアベル・ニンジャなどではない、SCP-076-2だ」「 [罵倒]![罵倒]!」「SCP、収容すべし!慈悲は無い!」「「イヤーッ!」」両者のカラテが交差する!
SCPコンテナーとは?突如現れた彼女は一体何者なのであろうか?ザイダンの秘密の特殊部隊か?新たな収容違反可能性?それとも要注意団体の放った刺客であろうか?
それについてはまた別の機会に譲らねばならない。
「ハァーッ!ハァーッ!」一方その頃、インバギとアラザキの二人はインバキの私室にいた。「早く早く!証拠を消してしまわなくては!」
二人の傍らにはクシマの姿もあった。彼女はアラザキの助手として全幅の信頼を寄せられている。その胸は豊満だった。
「あ、あの……一体なにを?」「黙っていなさい!いいからこの資料を処分するんですよ!」インバギがヒステリックに叫び、UNIXをタイピングする。
UNIX画面には銀行口座の預金残高が映し出されていた。彼らは隠し口座に違法ヌレセン製造で得た金を送金している所なのだ!
「アラザキ=サン!これは全て君の責任だよぉ?ヌレセンになんて手を出すからだ!」「そんな!D-クラスに違法労働をさせようと言い出したのはインバギ=サンでしょう!」
なんというブッタをも恐れぬ所業か!彼らは自らの立場を良いことにD-クラス達を不当に扱い私腹を肥やしていたのだ!
「そ、そんな恐ろしい事を!?」「うるさい!黙りたまえ!我々はここから逃げてGOCに亡命する!」「そうはいかねぇぜ!」
その時、ケンドー装甲を着た警備部隊とテイゾー、そしてコールマンが部屋に踏み込んだ。「な、何をしているのかねキミタチ!ここは立ち入り禁止ですよ!」
テイゾーが怒りに震えて銃を向ける!「うるせぇ、違法ヌレセン操業、数々の収容プロトコル違反。全部てめぇだろうが!」「な、何を言ってるのかね!まさかそこのD-クラスの言うことを信じているのかね!?」
「俺はエージェントだ。エージェント・コールマン。査察に派遣されたんだよ」「アイエエエ……」
「お、俺は無実だ!全部インバギ=サンに命令されただけなんだ!」アラザキは飛び込むように突然のドゲザ!
「くうぅ!見損ないましたよアラザキ=サン!か、かくなる上は!」形勢不利と見たインバギは隠し持っていた拳銃をクシマのこめかみに押し付け、盾とする!
「近寄ればこの女をう、撃ちますよ!」
どよめく警備員達、だがテイゾーはいたって冷静であった。「撃ちたきゃ撃ちな」「エ?」「エ?じゃねぇよ撃てるもんなら、撃ってみろって言ってんだよ!」
テイゾーは近くにあった椅子を蹴り飛ばす!インバギの注意がそれたその瞬間!「イヤーッ!」「ア、アババーッ!?」
インバキの体が銃を持つ右腕を支点に宙を舞い、床に叩き伏せられる!これはジュドーのカラテ技、イポン背負い!
「ア、アイエエエ!?」インバギは理解の範疇を超える出来事に失神寸前だ!「貴方達の悪事は私が全て記録しているわ」
クシマはそう言って一つの記録用素子を取り出した。
「ドーモ、クシマ査察官です」「ア、アイエエエ!?」ここにインガオホーは成された、平安時代の剣豪ミヤモト・マサシであれば「敵前のスモトリ、ドヒョウ・リングを踏まず」とコトワザを詠んだ所であろう。
全ての悪事はザイダンの査察チームによってすでに暴かれていたのだった。
「さぁ、二人とも連れて行きなさい」クシマがケンドー警備隊に指示を出す。「確保!収容!」「てめぇに保護はねえぞイディオット!」
「アイエエエエ!アイエエエ!」捕まったエイリアンめいて運ばれる二人を尻目に三人はその場に座り込んだ。コールマンがタバコに火を点ける。
「終わったのかしら……」「とりあえずわな」「ダイスケ=サンは?」「一命は取り留めた。とりあえずは大丈夫だ」「……アイ=サンは?」
長い沈黙が続く。あの後、謎のカラテ存在とアベルは死闘の後、アベルは再びカンオケへと封印された。そしてカラテ存在は何処かへと消えてしまったのだ。
あとに残されたのは崩壊したサイト-893と再度囚われたD-クラス達、そして物言わぬ屍の山である。外では収容違反のアラームに駆けつけた無数のザイダン機動部隊達が事態の収束に当たっていた。
この未曾有の災害に、ザイダンはいかほどの毀傷を負ったのかは想像もつかない。
コールマンが深く、タバコの煙を吐き出した。「少なくとも、あいつのおかげで俺は命を拾った」「ダイスケ=サンになんて言うか、頭が痛いぜ」
「別に気にしないわよ」「そうかもな…… アン?」黄昏れる三人の輪に一人の女が加わった。ナ、ナムアミダブツ!そこにはマエハラの姿!
「ブッダ!生きてたのかよお前!」「勝手に殺さないでよね。で、ダイスケはどこ?」「アイチャン!ヤッター!」
「アー、俺は生きてるって信じてたぜ」「ダイスケ=サンなら多分、そろそろ救護ヘリで運ばれる所だ、急げ!」「アイ、アイ」
白衣は煤け、糞掃衣めいた姿のままマエハラは駆け出していった。「今日は人生最悪の日だぜ」その後姿を追いながらテイゾーはコールマンのタバコを奪い取った。