締め切った室内に、彼が奏でる特徴的な音が沁み渡っている。
それが彼等二人の、秘められた契りの証であった。
博士の肉体をエージェントの指が滑りゆく都度、白皙の美貌が色づいてゆく。
「フフ、貴方の声が聞きたいですね」
エージェントのたわいない囁きすら快感となるのか、博士は法悦に打ち震え、声にならない嬌声を上げる。
『言うな・・・・・・言わないでくれっ・・・』
「そんなことを言って、あの助手には聴かせているんじゃないですか?・・・妬けるなあ」
『ああっ・・・・・・』
──エージェント・マオの指遣いは嫉妬故かいっそう巧みになり、神宮寺博士は身悶えるしかなくなっていく・・・・・・。
二人の出逢いは運命的なものであった。
SCP-132-JPの収容違反に遭遇し、生死の境を彷徨っていた博士を、マオが救ったことがきっかけであった。
神宮寺博士の生命は文字とほぼ同義である。オブジェクトに喰い荒らされアイデンティティすら揺らいでいた彼を、バックアップを手ずから執筆することでマオは再生させた。
記憶を喪った博士の肉体を、マオの作家らしい繊細な指が丹念に拓いていく。
これ程濃密な時間を過ごした二人に愛が芽生えるのは、至極当然のことだった。
一時の逢瀬──治療の名目で、助手には離れてもらっている──の終わりは、いつも突然だ。
「じゃあ、僕はこれで」
文も絶え絶えな神宮寺とはことなり、マオには着衣も息の乱れもない。
『マオくん、次はいつ会えるだろうか』
「ううん、カバーストーリーの執筆もありますし、家族サービスもしなきゃだからなあ。ちょっと、わからないですね」
『そうか・・・・・・』
出て行く際のマオの表情は、ポーカーフェイスのように神宮寺には見えた。
ぱたりとしまった扉の中、一冊きりになった神宮寺の胸中に黒く濁った感情が生まれていく。
この感情は、本物なのだろうか。
マオに植えつけられた、偽りの愛ではないだろうか。
パルプで出来た身が愛と疑念で引き裂かれそうになりながら、神宮寺はただただ、震えていた・・・・・・
メモ
- すれ違い切な純愛なストーリーにするには?
- 挿絵はどうする?
空白
201█/12/2
串間監察官
提出された報告レポートから上記の文書が発見されました。
内容より神宮寺博士及びエージェント・マオのオブジェクトに纏わる素行調査書と判断しましたが、既存の暗号プロトコルが使われておりません。
よって監察官自らの説明を求めます。
81地域統括内部保安部
201█/12/16
串間監察官
正当な理由無しでの文書返却は却下されます。
81地域統括内部保安部
201█/12/24
串間監察官
"間に合わない"とは何のことでしょうか。具体的説明を求めます。
81地域統括内部保安部
201█/12/27
串間監察官
度重なる要求に対し、監察官本人の十分な説明が得られないため内部保安部は召喚権を行使します。
よって、監察官の申請していた12/28〜12/31分の有給は取り消されました。
81地域統括内部保安部