逆転
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それは、誰もが見ないように、触れないように、気づかないようにしていた問題だった。
前例が無い訳ではないのだから、他地域でも確認されているのだから、と。
全員の沈黙の下に保たれていた平穏は、新しい日本支部理事の就任演説と共に破られた。
曰く、
『この支部には、余りにも人間とかけ離れた、オブジェクトに似通った職員が多すぎる。彼等に対する収容も、行われてしかるべきだ』
と。

空白
「スマンな、サイト管理者のボクが何も出来ひんで」
「なーに謝ってんのよ、らしくもないわね。ま、皆業務はきちんとやってるんだからすぐに出れるでしょ。バカンスくらいに考えてればいいって」
「ひひ、セクハラ酒乱がそういうんなら大方は大丈夫やろねえ」
「アンタねえ・・・・・・それじゃ、また。近いうちにね」
「・・・・・・せいぜい元気にしいや」
はきはきとした女性の声と、嗄れた京都弁の男性の声が別れの挨拶を交わす。
声の調子こそ明るいものの、二者とも再び会う可能性が限りなく低いことを承知していた。
最後の職員が乗り込むと、護送車のドアは勢い良く閉まり、目的地、隔離サイトへと出発した。
見送りに来た少数の職員たちの列を、護送車は名残惜しむようにゆっくりと通り過ぎていく。
サイトの敷地を出たら閉め切られることが決まっているからか、車の窓から手を振っている者たちもいる。
例え彼等がどんなに有能で忠誠心を示していても、異常性が解明されるまで解放されはしないだろう──

空白
護送車の窓から悲しげにこちらを見ているゴリラを、エージェント・カナヘビと呼ばれる老人は見送ることしか出来なかった。

ss
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