サタデーナイト・ホラー ※男と女と男の顔が近い
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がっつり恋愛してます
試金石なのでノリがアウトだったら削除

それなりに値が張りそうな液晶の向こうで、腐りかけの死体が美女を襲おうとしている。いかにもなアメリカン・ビューティーの彼女は、背中に忍び寄るそれに気づかない。
「・・・・・・ね、ね、育良くん、どう?こわい?」
「あ、いや、最初っから姿が分かってるなら、あんまり・・・・・・」
土曜日の夜、珍しく明日は一般企業のように休暇がとれて。
じゃあホラーをウチで見ようよ、なんて持ちかけた彼女は僕の右腕を柔らかく掴んで、なぁんだつまんない、と小さく頬を膨らませている。
ソファの近くのミニテーブルには安いサワーとスナックもある、箇条書きにすれば天国に近い環境のはずなのだ。
「・・・・・・・・・・・・」
左手で化物よりも恐ろしい形相の、彼女の兄さえいなければ。

美女、たしか主人公の友人Aが死体に齧られるなか、明るい表情の猫宮さんは喋る。
「でもさあ、兄貴がホラーダメなんて知らなかった!そーんなしかめっ面になるくらいイヤなんだね」
「わかっているなら、お兄様に配慮して打ち切るくらいしないか」
「やだ。兄貴のその顔面白いし、続き気になるもん。ねー育良くん?」
同意を求めてくる彼女の、名前にぴったりの猫のような瞳は可愛い。可愛いが、悲しいかな、僕の左側からは"妹とそれ以上イチャついたら呪い殺す"と言わんばかりのオーラが出ているのだ。訂正。こっそり脇腹を抓ってきたので物理攻撃も追加で。
「あは、は・・・・・・僕もちょっと、これ以上は怖そうで・・・・・・」
「えー!いいもんいいもん、マイノリティの権利を行使して上映続行するもん!」
玉虫色の返事を返してしまったが、顔を見る限り猫宮さんはそう機嫌を損ねていないようだ。ちょっと拗ねた様子もかわいい。
思わず顔を緩めて和んでいると、左の暗黒オーラが身震いする程増大して。
「おい、啓一郎、僕の要求が察せなかったのか?駄犬に躾けた覚えはないぞ」
猫宮さんが画面に夢中の隙を突いて、耳元でお兄さん、寓司さんが囁く。顔を見ると虎めいた鋭い目には、『今日は僕と妹が水入らずで過ごす日だ』とはっきり書かれている。
うーん、一応、付き合っているんだからいいと思うんだけど。
「お兄さん、でも幸ちゃんが見たがってるんですし、」
その場をやり過ごそうとした僕の言葉を聞いた途端、元々釣っている目がさらに釣り上がる。あ、地雷踏んだな。
「幸ちゃん・・・・・・言うに事欠いて幸ちゃんとお兄さんだと・・・・・・啓一郎、お前には立場の違いを躾け直す必要があるようだな」
「いッ・・・!あ、いだっ、痛い、痛いです寓司さん!」
寓司さんは左腕を引っ張り僕の背中を寄せると、そのまま思い切り爪を立てた。一昨日、彼自身でつけた傷をなぞるように。
うん、色んななんやかんやが有って、僕はこの人と恋人、彼曰く主人と狗の関係になっている。でもそれは、寓司さんとだけじゃなくて。
大の男が二人隣でドタバタして、大声まで上げれば猫宮さん、幸ちゃんだって流石に気にする。此方を振り向いた幸ちゃんは、一瞬驚いた顔をすると、直ぐに笑顔になって。
「あー!ずるい、兄貴ばっかり育良くんとイチャイチャして!私も啓くんとイチャイチャするー!」
正面から、ダイブするように僕に抱きついた。
そう、ほんっとに色んななんやかんやの結果、僕こと育良啓一郎はこの兄妹と同時進行で付き合っているのだ。共有されている、とは悲しいので認めない。
「幸子、啓くんとはなんだ。僕がいないところでそう呼び合っているのか。認めない、認めないぞ」
「別にー、兄貴と好きになった人がたまたま一緒で、たまたま同んなじ時期に付き合ってるだけだし。何してるか報告する必要ないでしょ?」
「なっ・・・・・・駄目だ、啓一郎の躾け上幸子が甘やかすと為にならないから、」
「嫉妬の言い訳なんか聞きませーん」
「嫉妬ではない!啓一郎、なんか言え!」
「啓くん、言っちゃダメ!」
ぎゅうぎゅうと可愛らしく抱きついてくる幸ちゃんと、背後からがっちりと抱き込む寓司さん。
二人は僕越しに、にゃあにゃあと言い争っている。
テレビの中では、腐った美女と死体が主人公に襲いかかっている真っ最中だ。
お前もか、頑張れよ。
僕はそっと、エールを送ったのであった。

ss
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