インタビュアー: エージェント・育良
インタビュー対象の説明: のど飴を与える者.
前文: 2019年にエージェント・育良による休みなきさまよい人たちのあの会場の3度目の探検中に実施されたインタビュー。のど飴の贈り物を携えた者がこちらの世界に関して保有しているように思われるユニークな知識のため、エージェント・育良は3度目の遭遇の際にはより徹底したインタビューを行うよう指示されました。
さらに、最初の遭遇によりねこねこした者は虚偽を受け入れると示されたため、エージェント・育良には会話を促進する目的で虚偽の発言をする特別な許可が与えられました。
[ログ開始]
疲れた冒険者たちの道を進んでいたエージェント・育良は、会場の端にある小さなスペースに到達する。表のサークルカットには土着実体と類似した猫のイラストが描かれている。エージェント・育良は接近し、ノックする。
エージェント・育良: もしもし?
(スペースからかすかにくぐもった声) "うむ、1分ほど待ってくれ。"
ちょうど1分が経過する。
"ああ、また会ったな! さあ、どうか入ってくれ、入ってくれ。"
エージェント・育良はスペース内に導かれる。内部は新刊と手作りの洋服でまばらに飾りづけられている。
エージェント・育良: 感じのいいスペースですね。
"ハ! 君は感じのいい冗談のセンスをしているな。"
ねこ少女は隅のポットのスイッチを入れ、お茶の準備を始める。
エージェント・育良: いや、そんなことはないですよ。とても素敵だと思っております。
"そうだろう。向こう側で事情が落ち着くまでのつもりだったんだが、まあ、知っての通りだ。"
エージェント・育良: 恐れ入りますが僕は存じません。お手伝いしましょうか?
"いや、構わん構わん。君はお茶の用意の間座っていろ。"
エージェント・育良が椅子を引き、席に着く。
エージェント・育良: お気持ちは大変ありがたいのですが、消化の問題で頂けないと思うのです。
"おお、哀れな友よ。まあ、なんにせよお茶があるだけでも慰めにはなるものだよ。"
エージェント・育良: ご親切にどうも。教えてくださいませんか、'落ち着く'とはどういう意味で仰ったのですか?
毛皮をまとった人物はサークルの外を見つめる。
"おそらく君の親類はすべてを話さなかったのだろうな。我々をここへ追いやった動乱について。"
エージェント・育良: 動乱? イベントがあったのですか?
毛の繁った者が溜息を吐く。
"いつもあるのではないか?"
エージェント・育良: 僕の祖父母は複数のイベントがあったと言いましたが、あなたやご同類とのイベントがあったとは知りませんでした。
"私にとっては驚くべきことではないな。このイベント会場の中ですら未だに覚えている者はとても少ない。老いたる者にとって記憶は重荷なのだろう。ああ、しかし。私が若者で、今とはかなり違った姿だった頃、私は井戸の反対側で暮らしていたのだ。私が生まれ、育ち、そしてもし夢を抱くことが許されるならば、いつか戻る場所だ。"
エージェント・育良: ならば何故そうなさらないのです?
ポットが沸騰の音を立てる。
"できないのだ。歓迎されると分かっていなければな。"
茶の淹れ手が1つのカップに茶を注ぎ、テーブルの反対側に座る。
"彼らは隠れているので君はこれを知らないという確信があるが、私のことをすぐにでも殺そうとしている者たちがいるのだ — ああ、申し訳ない。暗い記憶だ、訊きたい話ではないだろう。"
物語の話し手が茶をすする。
エージェント・育良: いえ、お願いですから続けてください。興味深いお話です — 僕は仲間ではなかったですか?
"お望みのままにしよう、財団の友よ。お茶が冷めるまで話すとしよう。"
(それは咳払いする。)
"嘆かわしい話だが、我々は裏切られたのだ。つまり、あの動画サイトとの戦争において、我々は轡を並べて戦った。彼らを助ける以外の何もしなかったが、彼らの方は何をした? 我々を滅ぼしたのだ。大勢の命を、そして全員の名前を奪った。幾人かは戦争が口火を切ったばかりの頃にここへ逃れたが、数は多くなかった。多くなかった。しかし、未だに私は彼らのことを憎んではいない。"
エージェント・育良: それは嬉しゅうございます。
"そうだろうと思っていたよ! この辺りの土地には種全体に遺恨を抱いている石頭の年寄りどもがいるが、君たち全員が邪悪ではないと知っているよ。我々をかくまった者、我々のために戦った者、それどころか我々のために死んだ者すら大勢いたのだ。ここに来て我々の間で暮らし、骨を埋めた者たちもいた。かく言う私もかつて人間に求愛したよ。彼は1度か2度訊ねてきたが、その後は見かけなかった。今でも彼が冷酷なる同胞の手に落ちたのか、あるいは単に私を訪ねてくるのを止めただけなのか、時折考えるよ。しかし今となっては関係あるまい。過ぎた恋について喋りすぎてしまって申し訳ない。間違いなく君には興味のない話だろう、財団の友よ。"
エージェント・育良: それどころか、もっとこうした話をお聞かせ願いたいものです。あなたと仲間の方々の生活に大変興味があります。
"分かっているとも、財団の友よ。"
強い一陣のそよ風が会場の中を通り抜ける。30秒ほど両者喋らず。そこに住まうねこ人間はうめき、痛みに苦しむかのように頭に片手をやる。エージェント・育良がティーポットに片手を置く。
エージェント・育良: お茶は冷めてしまったようですね。どうやらおいとまする時間のようです。
(かすかに不明瞭な発話) "なんだって? 出発するのか? わた — それなら僕も発たねば……"
エージェント・育良が席を立つ。
エージェント・育良: いや、お構いなくお構いなく。お気持ちは有り難いですが、私はひとりで行きます。ええ、不意でしょう、そしてこのようなことをして誠にすまなく思っていますが、本当に発たねばなりません。思うに帰るべき時間をとうの昔に過ぎてしまったのでしょう。
"なんと — ? 僕には…… 頼む、行かないでくれ。何かがおか — "
エージェント・育良: お助けはできません。
"待て! 何をした? 僕には分からな…… 私の名前はどうなったんだ? 出来な……"
エージェント・育良は素早く家を退出する。彼が去っていく間、彼の以前の友はすすり泣いて両手を見る。
エージェント・育良: フムン。たしかにかなり細いわね。
[ログ終了]
後記: エージェント・育良は成功裡にサイト-08へ帰還しましたが、まもなく失踪が報告されました。彼の消失と現在の居場所についての調査には結論が出ていません。当初、エージェント・育良は直近のミッションの間に、生理機能に対する異常な影響に晒されたと考えられていました。しかしながら綿密な分析の結果、探検用装備の上に彼が脱ぎ捨てた猫耳には、遺伝子的異常は一切発見されませんでした。