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当ページのカノンネタは好きに使ってください。当人には書く時間がありません。だから書いてくれると喜びます。
そして一部には既存のTaleの壮絶なネタバレが書かれているかもしれません。見て後悔しないように。
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歴史改変カノン
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財団が世界に現れる前、世界はいかような混迷の中にあったか?
"一つの怪物が世界にあらわれている──異常という怪物が"
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ローマ教皇庁・聖蹟保存省(Sacra Congregatio de Reliques Tutelae)
叙任権闘争終結後、教皇庁に設置された聖遺物回収のための秘密組織。初代の聖蹟保存省長官は後にイノケンティウス3世となる枢機卿、ロタリオ・ディ・コンティ。代々の代表者は総長Metatronと呼ばれた。
収集した異常性物体をローマカトリックの世界観にそぐう聖遺物(Sephira)と反キリスト的異端物(Qlipha)として分類し、収集及び無力化を行っていた。組織そのものは教皇庁によって整理されていたが、内部には各会派等の思惑なども絡み決して一枚岩ではなかった。各諸侯にはその存在が秘匿され、情報の流出を招いた際には聖蹟保存省の所有する何らかの手段により隠蔽工作を行っていたようである。修道院や教会には委員会の特命を受けたものが多数存在していたとされ、財団における収容サイトの役割を果たした。サン・ピエトロ大聖堂建立後は本部を地下のネクロポリスに移した。外部にはドイツ騎士団などの騎士修道会も有していたが、教皇権の没落などにともない直属の軍事力には乏しかった。
回収物の世俗流失を絶対阻止することを至上目的としており、アングリカン・チャーチによる離反の砌には一大紛争を巻き起こしたこともある。アングリカン・チャーチに残留した聖蹟保存省英国支部は後にハンス・スローン記念財団(大英博物館)となり、ローマ聖蹟保存省と激しく対立していたが、帝国主義の伸長に伴って協力関係が発展し、他の様々な機関も寄り合わさった結果、第一次世界大戦前には現在の財団の原型となった。
ここより異端として排斥されたゼロテ派Societas Zēlotēsは後に世界オカルト連合の前身組織となる。
ハンス・スローン記念財団(Sir Hans Sloane Memorial Foundation)
[通称]
大英博物館(The British Museum)
ブルームズベリー・ハウス(Bloomsbury House)
グレート・ラッセル・ストリート(Great Russell St.)
フランシス・ウォルシンガムが作り上げた諜報機関と、ヘンリ8世によるアングリカン・チャーチ成立による聖蹟保存省英国支部離反によって成立したイギリス王立の異常性物体研究組織。活動そのものは18世紀以前より行われていたが、大航海時代を経てハンス・スローン卿によりその活動が急激に活発化した。卿の死後、政府は大英博物館を設置すると同時に、博物館の運営組織を隠れ蓑とした秘密組織・ハンス・スローン記念財団を結成した。職員はCurator(学芸員)と呼ばれ、世界各地で活動を行った。中でもローマ聖蹟保存省や、パレス・ド・ルーヴル機関、博物館島やエルミタージュ機関などとの競合は熾烈なものであったとされる。
ハンス・スローン記念財団をを指導する賢 人 会 議ウェテナイェモート(通称"裏理事会")は、25名の理事と国王によって構成され、数百年にわたり組織を率いてきた。政府機関内では大英博物館、ブルームズベリー・ハウスなどの渾名を与えられ、第一次世界大戦前にはローマ聖蹟保存省、ルーヴル機関などとの提携により世界規模の秘密組織・財団の一翼を担うに至った。
著名な人物
事実上の初代機関長。ヘンリ8世の腹心で、宗教改革に際し第一主教代理に任命された。国王直属・修道院問題対策委員会初代議長。
5代目機関長。エリザベス1世に雇用され、私費を投じて機関の諜報活動を大幅に飛躍させた。
9代目機関長。コモンウェルス時代の国務大臣。ジョン・ウォリス博士らを登用し、機関の持つ諜報能力をさらに強化した。
ルーヴル宮殿パレス・ド・ルーヴル
[通称]
ルーヴル機関
マーウィ・エルミタージュ
[通称]
エカチェリーナズ・ルーム
ペテルブルク機関
博 物 館 島ムゼウムスインゼル
[通称]
シュプレー機関
トランスヴァール共和国秘 密 諜 報 部デ・ゲヘイメ・ディーンスト
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蒐集院
エージェント "ドーン" — アレイスター・クロウリー (Agent "Dawn" - Aleister Crowley)
イギリス出身の魔術師。元はハンス・スローン卿記念財団の秘儀研究者であったが内部規定違反を重ねたため研究職を解任され、SHS記念財団外郭団体のエージェントとして世界各地で活動を開始した。しかしあまりにも"目立ち"すぎていたため、専らカバーストーリー流布時のキャラクターとして利用されることが多かった。後年は帝国主義国家同士の対立が深まる中、"統一組織"の必要を訴え、後に世界オカルト連合の原型組織となるソロモン評議会(72柱会議)を設立。その際に現在のGOC事務総長――D.C. アル・フィーネと出会っている。評議会設立に当たり古巣であるSHS記念財団や聖蹟保存委員会にも協力を求めたが、これらの組織はいずれも無差別な異常性物体保護・魔術研究の独占的運用を掲げていたため彼の信条とは合わず提携を断念している。
評議会の研究機関 "ba'alu"初代総長に就任した後は、その情熱を魔術研究に注いだ。
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"ウィットウォーターズランドの怪物" 1885年
・トランスヴァールで鉱産資源が発見され、侵攻を目論む大英帝国
-ハンス・スローン記念財団ロンドン本館へ、ケープ植民地総督のハークルス・ロビンソンからとある怪奇現象についての実地調査を依頼される。
-ケープ植民地へ赴くハンス・スローン財団の実地学芸員キュレーター(主人公)
-総督のとの会話。ムゼウムスインゼルの暗躍を示唆。トランスヴァール共和国への潜入
・ウィットウォーターズランドの怪物と呼ばれる現象
-移民保護の自警団(英軍)が、毎夜のごとく妻やそれに類する女性に惨殺されている
-悲惨なスラムと化した炭鉱町
-自分が呪殺したと言ってはばからない癲狂の老婆
-夫殺しの模倣犯が多発している
-徐々に夫殺しをする妻の年齢が下がってきている
-ムゼウムスインゼルのエージェントたちとの戦闘
・怪物の正体
-炭鉱夫に暴行を受け、徐々に物理的な幼児退行を始めているブール人の少女(現実改変能力者、老婆の孫娘)
-女性の脳にだけ作用する、最も近くの男を殺そうとさせる意思ミーム汚染。
ミーム汚染を引き起こす電磁波の周波数があり、幼児退行によってその年齢が下がりつつある=放っておけば無力化される
-大英博物館特別資産部門の報告書
"帝国の聖櫃" 1896年
・イタリア王国によるエチオピア侵攻(第一次エチオピア戦争)
-イタリア王国軍に従軍する使徒座・聖蹟保存省の司祭(主人公)
-メネリク2世の幕僚内部にいるとされるエチオピア正教会系宗教秘密結社
・フランスはその内偵を兼ねて軍事支援を行っていた
-イタリア軍スパイによってもたらされた聖櫃の噂
・ショア王国軍の戦場神話"律法の王冠Keter Torah"
・アドゥワ会戦
-一瞬のうちに壊滅するイタリア軍を目撃する司祭
-瀕死のエチオピア軍兵士「パンドラの箱、サタンの王冠」
-上空に現れる、数千人を一瞬のうちに灰にした王冠Keter
・数ヶ月後
-アドゥワ文書(現実改変の影響を受けた司祭の書いたメモランダム。一部記載が戦闘詳報と異なる)
-ルーヴル機関(フランス)より大英博物館に持ち込まれ、超常兵器の存在を察知
-レジメントによる宗教結社襲撃
-Keterは既に持ち出されていた
・修行者の遺言
-生き残った中で唯一口を利ける修行者
-うわ言のように同一の単語を繰り返す
イクナートンの系譜を追え
祝福されたセムとヤフェトの子孫へ渡せ。我々はセムでもヤフェトでもないのだから
箱舟は失われた
"ファショダ・インシデント" 1898年
ウィットウォーターズランドの怪物
「妻は絶えず夫に服従することによって、彼を支配する」
かのトマス・フラーはこのように述べ、我々に対して警戒を呼びかけた。妻とは気が付かぬうちに家庭を支配し、我々の影響力をどこかへ押しやっている。
「英国人にとって家は城」
このように述べられることもある。とすれば城主とは妻であろうか。
1886年█月██日、ブルームズベリーに一つの電信が届いた。送り主はやんごとなきケープ植民地総督臨時代理、レスター・スマイス。国外部門Fデパートメントは直ちにこの内容を賢 人 会 議ウェテナイェモートへ送り、その意思を仰いだ。それはこの電信の内容の重要さ故ではなく、むしろその逆であった。
「当地では、多くの妻が夫を殺害している。その数は今や数百件にも上り、社会不安の原因たりうるであろうと思われる」
23人の理事たちは、困惑に染まった顔を見合わせた。女王陛下の臨席を要請しなかったのは正解だった、と誰かが口走り、国外部門部長キーパーは咳払いをしなくてはならなかった。続報にはケープ植民地北方のトランスヴァールでの怪事件の委細が記され、ケープ植民地総督として本件に対する大英博物館──ハンス・スローン記念財団による調査を求める旨が添えられていた。
一体どこに異常性を見出せばよいのか。しかしケープ植民地総督が手の込んだ悪戯をしたという可能性は考えづらく、数日のうちに決定は下された。
一名のキュレーターを派遣し、本案件に当たらせるものとす。裏の25理事の全員のサインの入った命令書を持った私は、そういうわけでトマス・クックの汽船に乗った。ブリストルを出発して数日、喜望峰から北に50キロに位置するケープ・タウンに到着すると、既に盛夏となっていた。聞けば、この時期が一年で最も気温が低いのだという。テムズが凍らなくなってから久しいが、暑さでも彼らは冬だというのだから恐れ入る。私にとってFセクションでの本格的な仕事はこれが初めてだった。新人のエージェントをたった一人寄越されて、サー・ロビンソンが一体どのような表情となるのか、私は身震いする思いでいた。キャッスル・オブ・グッドホープの城壁をくぐり、秘書の出迎えを受けると、私は今一度命令書を入れたトランクを握り直した。その手に滲んでいた汗は、決して暑さのせいだけではなかった。オランダ東インド会社以来の建築であるこの城塞には、代々ケープ総督が居住している。
「ようこそケープ植民地へ。大英博物館ブルームズベリーの 学芸員キュレーター」
第17代ケープ植民地総督・ハークルス・ロビンソンの臨時代理であるレスター・スマイスは、返礼をしようとした私を待つことなく話を続けた。
「そちらにはすでに委細が送られていると思うが、君にはこれからトランスヴァールに潜入してもらう」
トランスヴァールヴァール川の向こう側。またの名を南アフリカ共和国。
この大英帝国の目の上のたんこぶとも言うべき勢力は、 こ こ ケープ植民地より北方の高原地帯に位置する"独立国"だった。大 移 動グレートトレック以後の紆余曲折を経て建国されたボーア人たちの国は、5年前のマジュバ・ヒル会戦で帝国相手に大勝した。趨勢の決したボーア戦争は終結し、プレトリア協定でトランスヴァールは自らの独立を再び帝国に認めさせた。
ところが。束の間の平和を得たかに思われた小国に、一大転機が訪れた。
ちょうど今年の始め、中部の小村であるヨハネスブルグの近辺で金鉱が見つかったのだ。これを期に瞬く間にイギリス系の坑夫たちがヨハネスブルグに押し寄せ、その地をスラムに変えてしまった。もとより勢力伸長を狙うケープ植民地はこの機に乗じて大量の植民者を送り込み、トランスヴァールとの間に緊張状態を現出させている。
「鉱脈のあるウィットウォーターズランドが、問題なのだ」総督代理は独りでにアフリカ大陸南部の地図の前を歩き回り始める。「この地で毎日のように男が惨殺されている――それも、自分の妻にだ」
「失礼ですが閣下、そのような話はどこにでもあるのでは」
この私が呈した疑問は、もちろん本館でも検討された。夫婦仲がこじれての殺人。別段珍しいものでもない。 この総督代理が言うには、このままでは植民活動に支障をきたすほどの社会不安につながる恐れがある。その前に大英博物館が調査を行ってほしい、ということだった。本来なら現地での対処を命じるところだが、植民地総督の直々の懇願であることから本件が扱われることになった。
「これからケープ植民地は軍事行動を起こす」総督代理はその禿げ上がった額を私に近づける。「そのためにはこのような後顧の憂いがあってはならん」
「トランスヴァールの超常兵器だと」
「その通り」特徴的なもみあげを撫でながら、総督代理はなおも続ける。「ムゼウムスインゼルが怪しい」
「ベルリンの連中がなんでこんな事件に首を突っ込んでいるんです?」
という私の問に対して、だから怪しいのだ、と総督代理は半ば怒鳴るようにして言った。「奴らが何か提供したのかもしれん」
ドイツ領東アフリカとケープ植民地の関係は、決して良好というわけではない。今でこそ極東や中東をめぐる英露対立が取り沙汰されるが、帝国内でもドイツは潜在的な敵国であると見なされている。ましてアフリカ分割に出遅れたドイツともなれば、トランスヴァールやオレンジといった反英的勢力と手を組むことも考えられるのだ。ヴィルヘルム二世の親政開始以来、欧州のパワーバランスは急速に変化を始めている。
「その報告は本国に?」
「まだだ。しておらん」
「何故です?」
「君らの政治的決定にかける情熱はよく知っている」皮肉であることを隠そうともしない総督は、来賓用のソファに座る。「待っているうちに逃がしてはかなわん」
私は黙ってその姿を見守る。ケープ植民地は恐らく、すでに独自に手を伸ばしていたはずだ。 しかしその試みは失敗に終わった。ムゼウムスインゼルの関与を示す証拠をつかんでいるのかもしれない。
「分かりました。ですが本館への報告は行っていただきます」
私が出立するまでには、と付け加えると総督代理はうなずいた。
「必ず」
「お願い致します」
私は一礼して、部屋を後にする。
ヨハネスブルグ――ウィットウォーターズランドは、トランスヴァールの大半を占める高原地帯にあって、一つの盆地を形成している。金鉱脈とはいっても巨大な山などがあるわけではなく、まさに、地平に急に姿を現したかのように存在する。
伝道師の出で立ちをした私は、スラムのすぐ近くに居を構えた。国教会の牧師にしては少々体格がよすぎるようにも思えたが、かえって胡散臭い方がこの辺りではなじむかもしれない。正確にはスプリングスという名前であるらしい街には、あばら家が立ち並んで集落をつくっている。少し離れた場所には加工所のようなものがあり、いかにも体に害のありそうな字排水を垂れ流している。テムズ川の縮小版のような様相の細い川では、薄汚い恰好の幼児が死んだ魚を積み上げて遊んでいる。
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わるい財団が世界を支配するならば、悪い蒐集院はこの国を支配する。
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蒐集院(SCPA Special Collected Property Agency)
内閣における一省庁。代表は蒐集院総裁。この役職は閣僚と同格とされ(令外官)たが、天皇に対する責任を負っておらず、内閣総辞職時にも辞職の必要はないとされる。
組織としての詳細な起源は不明。一説によれば大和王朝の御世からの組織ともされ、過去には大規模な院史編纂事業が行われた。本組織が本格的に権力を持つように至ったのは江戸幕府のころからである。鎖国政策を行い情報漏洩を防いできた徳川政権は、社会停滞の打開をはかり、ある異常な技術を持つ集団を見出す。これが蒐集院の前身組織・宮内省 斎蔵司である。しかし斎蔵司はあくまで天皇隷下の組織であり、軍事独裁政権たる幕政に不満を持っていた。外国勢力との戦争を機に倒幕勢力を支援して明治政府樹立に貢献した斎蔵司は、神祇官へ改組され絶大な権力を手にするに至った。
賜宝政策と通称される官民への超常技術の移転によって、帝国日本は急速に成長し、神祇官の声望もそれだけ高まった。ところが次第に神祇官はテクノクラート的独裁を敷くようになったため、自由民権勢力などから批判を浴びるようになった。
神祇官は継続していた攘夷政策を一部緩和し、外国勢力との交流を開始する。そしてそれは、神聖日本の帝国主義の端緒となった。海外領土を次々と獲得していくものの、内部では財政の悪化や繰り返される重税が国民の不満を呼んだ。
結局、立憲派勢力に抗しきることができず、旧斎蔵司勢力は単なる超常技術開発組織として政治的影響力を失ってしまう。斎蔵司勢力を危険視していた元勲の影響力が徐々に失われてくると、政党勢力や世論を利用して旧斎蔵司勢力は復権を図り、内閣制発足とともに政治の表舞台へ再び登場した。賜宝政策はさらに拡大され、日本各地で超常事物の蒐集が開始された。この活動より現在の蒐集院という名称が使われるようになったとされる。
現在では蒐集院は完全に内閣・議会・司法三権の上位存在となり、事実上の独裁制を敷いている。蒐集院はその技術を用いて国民を洗脳し、そして超時代的な警察国家
として社会を完全に閉鎖した。超常技術によって強化された軍備は強大であり、日本経済圏は亜細亜の半分を覆わんとしている。
蒐集院という組織が何時から出来たのかという質問は、答えるのが非常に難しい。ただ、この年齢不詳の組織が『蒐集院』という名称に定まったのは、元勲・伊藤公の内閣制発足と同時であることは確かである。
甲から丁に大別される組織体系は、相互に歴史の何処でつながっているのかが不明瞭で、たとえ今は一つの部局であっても、ある時は分裂しており、ある時は他の部署と統合されていた、と言ったように節操が無い。総勢数千名を擁する大組織となった今では、そのように組織自身の出自が不明瞭なのは運営上良くないとされて、一部の研儀官たちの間で院史編纂という事業が計画されている。
今年は、我々にとって記念すべき年であった。西暦1924年、皇紀2584年の第50回帝国議会において、蒐集院が制定に血道を上げていた特種資産ノ管理ニ関スル法、蒐集院設置ニ関スル法の法案可決が成ったからである。桂内閣に引き続いて、加藤内閣においても蒐集院総裁として留任した橿原宮仙仁(ひさひと)親王は、この法制定に半生を費やしたと言っても過言ではないお方であった。
本法は、これまで憲政制度の中で曖昧であった蒐集院の立場を明確に、中央官庁を構成する一機関として定め、その権能を必要な範囲ですべて認めるという、画期的な法律である。内務省との島の取り合いにも、ようやく一段落付くのだ。
世間ではデモクラシーが叫ばれている。先の戦役で膨張した軍を縮小し、これまで制限されてきた民権を拡張せよという論陣が至る所にて張られ、政府は対外膨張政策への行き詰まりを感じ始めている。橿原宮は比較的政党政治家に対して同情的であった。憲政会のお歴々とも面識があり、度々会食を開くようなこともしている。
橿原宮は度々、帝国の膨張主義に対して警鐘を鳴らしている。だからこそ憲政会との結びつきを強め、枢密院や閣僚会議でも軍部を牽制することが多かった。蒐集院全体として軍部による蒐集物の乱用に批判的な意見が多く、陸軍の研究所への研儀官派遣の話もこの間流れたばかりだ。
「学者崩れどもめ」
知り合いの大尉がそう言っていた。私がその悪声に対して、どのような返事をしたかについて言うべきではないだろう。総裁秘書官という職務上、私は常に中正であることが求められるのである。
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まず、現在構想中のTaleは既に完成したものを含めて四本あります。それを時系列順に並べると、
・三川十七が陸軍を離脱する話(タイトル未定。ややスピンオフ寄りな話)
・エージェント・海野の顔(三川が日本に戻ってくる話)
・KTE-3317-Green Sunset(三川が日本で行動を起こす話)
・カオス・インサージェンシーと三川の共謀による騒乱(タイトル未定。これが結末となります)
何故突然カオス・インサージェンシー? と怪訝に思われること必定でありますので、この世界観でのストーリーラインを記述して行こうと思います。
【数万年前】
・"花の日 (The Day of Flowers) "発生。"夜闇の子ら (SCP-1000) "滅亡。
・"太陽の子ら (The Children of the Sun) "が結成。秘密結社となり文明の興隆に寄与する。
・太陽の子らザ・チルドレン・オブ・ザ・サンの一部が財団の原型組織へ合流。
【三千三百年前】
・"太陽の子ら"、アメンホテプ4世に対して唯一神の概念を伝える。
・後、"太陽の子ら"はテーベ神官団による弾圧を受け、レバント地方へ放逐。
・エジプト国内のユダヤ人集団("太陽の子ら")が秘密結社を継続。のち、出エジプトによってその記録と伝承者のほとんどはテル・エル・アマルナに残置される。
【六百年前】
・財団、"太陽の子ら (The Children of the Sun) "を確保。その技術を接収し、知識を得る。
【九十年前】
・財団、テル・エル・アマルナの発掘事業を開始。この時期にロッター・フックス博士は"太陽の子ら"の存在を知り、"花の日"に関する研究を開始。
・ロッター・フックス博士、"ヒト知性に対する一般考察及びその懸念"を発表。財団記憶処理医学アカデミーの主流派から追放される。
・サイト-92での"ザ・サンズ・オブ・ワイズ"演説。翌日、財団内戦勃発。
・財団内戦終結。"トライアド"残党の一派がロッター・フックス博士を中心とした秘密結社"智慧の息子(ザ・サンズ・オブ・ワイズ)"を結成。
【七十年前】
・財団、蒐集院勢力の排除のため太平洋戦争を誘発させる
・三川十七、潜水艦で満州へ異常性物体輸送中に、ソ連参戦・負号部隊の裏切りを知り、陸軍を離脱し失踪。(時系列最初のTale)
・三川十七、潜水艦内で自身の異常性物体の影響により認識災害の異常性を得る(時系列最初のTale)
・GOC、三川の異常物体持ち逃げを察知。財団に先んじて追跡を開始。
・三川十七、カオス・インサージェンシー一派"智慧の息子"と接触・合流。
・"智慧の息子"、日本の戦後の混乱を利用して、日本人の遺伝子の内部に実験中の異常性発現因子を送り込む(これには三川回収の異常物体が利用された設定)
・財団、元負号部隊関係者の証言により三川の離脱を察知、同様に追跡を開始するもGOCによって情報封鎖され頓挫
【六十~三十年前ごろ】
・部分的ながら異常遺伝子による異常性の発現が始まる(日本人の長寿化、死亡率の減少=不完全な不老不死化『でもCIのメインは後進国なんだから後進国でも同様の実験をしているべきでは?→統計を取れる可能性が低かった、カムフラージュできた?』)
・このころから日本支部職員の間にも異常性持ち職員が増え始め、財団による人型存在収容事件数も増加傾向に
・GOCによる事務総長D.C.al Fineの遺伝子を用いた制御可能な妖術者・現実改変能力者の創造計画が始まる
・海野一三、誕生。三川と同型の異常遺伝子の影響で顔にのみ異常性が現れる
【二十~十年前ごろ】
・GOCの妖術者・現実改変者量産計画が頓挫。最高司令部より被験体の殺処分が命じられたため、良心の呵責を覚えた研究者たちが実験成果ともども"智慧の息子"へ亡命。"智慧の息子"で実験が継続される
・第二世代被験体・雨(舌切り雀)、誕生。しかし他の被験体同様、実験を終えた"智慧の息子"によって記憶処理・解放される
・他の被験体は証拠隠滅のため"智慧の息子"のエージェントによってすべて殺されるが、雨だけは元研究者たちの尽力により逃げおおせる
【現在】
・雨、GOCの特殊立会人により発見される。(GOCは"智慧の息子"の実験継続を察知。雨を評価班員として雇用し、以後CI向けの囮とする)
・三川十七、雨の生存を聞き再来日。海野たち財団と対決する(エージェント・海野の顔)
・三川十七、"海野の顔"事件を機にGOCに発見。舌切り雀たちの部隊に追跡され追いつめられる
・三川十七、"智慧の息子"の幹部である"猫"と接触。GOCと財団を離間させる計画を企図
・三川十七、"しゃべる透明猫"を手土産に宿敵であるカナヘビと接触。GOCからの保護を求める(KTE-3317-Green Sunset)
・GOCと財団間で三川十七及び"猫"を巡る闘争の最中、財団エージェントの手により舌切り雀が殺害される(実際には三川が成り済まして殺した)(KTE-3317-Green Sunset)
・財団は三川十七との結託をGOCによって糾弾され、GOCは舌切り雀に関する情報を隠匿しようとしたため(猫を保護していたエージェントが、彼らの狙いが舌切り雀であることを知っていたため、財団がこれに関する情報開示を求めた)財団に糾弾されるという状況になり、両者の間に緊張状態が現れる(時系列最後のTale)
・A.海野、職務へ復帰。負号部隊元メンバーとともに日本支部理事会へ招集され、三川十七に関する機密情報(陸軍離脱と負号部隊との確執)を聞かされる(時系列最後のTale)
・CIによる日本国内での騒擾計画(三川十七はこれを財団勢力に対する本土決戦とし、寝返った職員を殺す機会と捉えていた)の発動(時系列最後のTale)
・CIによる異常性遺伝子の暴露、そして量産計画によって完成した(高次記憶処理を応用した指向的精神変性技術によるもの)不完全能力者たち(頭がフクシンの花になって破裂する)による全国規模の騒乱。"花の日(The Day of Flowers)"の再現(時系列最後のTale)
・三川十七、サイト-8181を強襲。結城博士、アンドリュー博士らを殺害し、カナヘビと対峙。(時系列最後のTale)
【三川十七について】
・負号部隊(=葦舟=カナヘビ)とはもともと仲が悪く、裏切りと敗戦を機に陸軍を離脱。財団に制圧された日本の奪還(事実上不可能であるため反乱)を目的とする
・海野については自分と同じ異常性を持っていたという以上の興味はない
【舌切り雀について】
・GOCの計画では本来空間中のエネルギーを制御して自在に魔術を行える現実改変めいた妖術者になる予定だった
・実際には空間中のエネルギーへの強い感受性を獲得するにとどまり、それを利用して強力なレーダーとして機能する
・CIが消したがっている存在であり、GOCはそれを利用して囮とした
【猫について】
・日本におけるCIの幹部です。三川とともに日本での騒擾を企図
・ちなみに透明なのは海野十三の短編・透明猫から。(私が書くことで、気付く人が気付けば面白いと思っていました)
・三川による保護要請含め全て狂言
【カナヘビ及び負号部隊、日本支部理事会について】
・今回はカナヘビ=葦舟説を取ります
・猫の保護を承諾した段階で、カナヘビは三川に企みがあることに感づいていた
・日本支部理事会の中には当然元蒐集院出身者がおり、三川について知っていた(が、発見はできなかった)
ご指摘の通り途中からは負号部隊がメインに据えられるので、読者に予備知識を与えるような何かが必要だと思います。しかし、こう言っては何ですが、自分の最後のTaleが書き上がる頃には、何かしら負号部隊のTaleなりオブジェクトが登場している可能性が高いと思います。かなり遅筆な方なので…
まずGOCと財団の2組織の対立について、考えたことをまとめようと思います。まずGOCはカオス・インサージェンシーと財団の区別があんまりついていません(ハブを参照ください)。
そしてGOCは財団に対してこのような勘違いをしました。
財団と三川十七(=カオス・インサージェンシー)が組み、舌切り雀を殺害した。
これは、GOCにとって一番殺されたくない人間が殺されたことになります。GOCは非人道的な人体実験を行っていたことを対外的には隠蔽していました。GOCはこの行為を財団に糾弾され、今後財団に対して不利な立場になることを恐れたのです。
そして、GOCは財団とカオス・インサージェンシーの区別がついていません。GOCは財団がすべて知った上で、さらに舌切り雀を殺害することでカオス・インサージェンシーの活動を支援するために一芝居を打ったのではないかと疑ったのです。つまりGOCへの明確な害意ある攻撃だと受け取ったのです。
そして当のカオス・インサージェンシーはGOCと財団の間に発生した緊張状態を利用して、自信の計画を推進する――というような筋書きを考えていました。
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SCP-503-FS-JP - "JAM"
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アイテム番号: SCP-503-FS-JP
オブジェクトクラス: Keter
特別収容プロトコル: SCP-503-FS-JPは現在収容不可能な状態にあります。プロトコル-"インベーダー"により、一般市民が"対ジャム戦争"の存在を忘却する状態を維持してください。FAFによるSCP-503-FS-JP-1封じ込めは現在まで有効に継続しています。 ████年██月██日以降、SCP-503-FS-JP内部との通信が途絶しており、現在調査中です。
説明: SCP-503-FS-JPは19██年に発見された未知の惑星です。SCP-503-FS-JPの環境は地球とは多少異なっていますが、人の生存が可能であり、原住の恐竜や植物などの存在も確認されています。調査によってSCP-503-FS-JPが未知の恒星系に存在することが確認されましたが、正確な座標は依然不明なままです。
19██年、南極点周辺に突如として原理不明の超空間通路(SCP-503-FS-JP-1に指定)が出現したことを契機に、このSCP-503-FS-JPは発見されました。この際に南極のアムンゼン・スコット基地が未知の異星体(SCP-503-FS-JP-2)による襲撃を受けたことが世界的なニュースとなり、財団による隠蔽が不可能になっています。SCP-503-FS-JP-2による人類領域への侵攻本格化に伴って、財団は各国と提携し反撃を行い、SCP-503-FS-JP-1を通過、SCP-503-FS-JP内部への逆侵攻に成功しました。その後、財団は各国に戦力を供出させる形で直轄の空軍を編成し、SCP-503-FS-JP内に恒久基地を建設しました。
SCP-503-FS-JP-2による攻撃は未だ日常的に繰り返されており、財団空軍との戦闘が絶えません。
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【三千機関保有の異常存在リスト: 1】
"植物人間"
……文字通り植物状態の人間。しかし彼女のベッドはプランターであり、シーツの代わりに土の上で寝ている。身体は緑色(葉緑体がある)で、背中などからは筋肉質な根が張り、光と水と栄養があればかなり高効率な光合成を行う。食虫植物。
【三千機関保有の異常存在リスト: 2】
"蓄音機"
……見た目は古い蓄音機だが、針の部分が未知の素材で出来ている。この針を音を発する物体に刺すとその音源から振動を奪い、代わりにG線上のアリアを流す。人間に刺す実験が行われたが、心筋へ直接刺さない限り殺すことはできない模様。
【三千機関保有の異常存在リスト: 3】
"ハムスター機関"
……数匹のゴールデンハムスターで、主食が"その場で最も重要なもの"。これを食べると活動を開始し、回し車を超高速で回転させ、数千馬力に達するエネルギーを生み出す。三千機関は████の写真を食べさせていた。
【三千機関保有の異常存在リスト: 4】
"有機歯車"
……大量の歯車。見た目はピンク色をしており、肉感的な素材でできている。これと金属部品を交換すると、そこから金属部品がこの肉でできた素材に徐々に置換される。その間、この歯車は機械の一部とみなした人間を取り込む性質を持つ。
【三千機関保有の異常存在リスト: 5】
"逆鱗"
……何らかの巨大な爬虫類生物の鱗のようなもの。触れた生物をその部分から爆弾へ変える。逆鱗の近くにいるうちは平気だが、一定以上離れると爆発する。完全に爆弾と化した人間の顎の下にこれが現れ、増え続けるという性質を持つ。威力は小規模。
【三千機関保有の異常存在リスト: 6】
"軍隊手牒"
……昭和17年版以降のもの。戦陣訓のページが差し替えられており、架空の軍へ向けた内容となっている。内容は極めて非倫理的な内容となっている。読んだ者がことごとく自殺するため内容の最終部分が不明。"生きて虜囚の辱めを受けず"(逆から読んでも内容が順番になる)
【三千機関保有の異常存在リスト: 7】
"鏡"
……出自不明の割れた鏡の破片。人だけを写さないという異常性を持ち、見た人間に相貌失認を起こさせる。蒐集院がもともと保管していた異常存在で、実験が禁止されていた。保管引継文書にもほとんど記載はなく、実在そのものを疑う向きもある。
【三千機関保有の異常存在リスト: 8】
"歌う藤壷"
……歯の生えたクロフジツボ。当然繁殖するが、音の出る場所を好む性質がある。"幻島同盟諸島"産。大量に繁殖すると、周囲の音に合わせた"歌"を歌いだす。種によっては反対の位相の音を出し、音を掻き消すといった行動もとる。
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精神部門
精神部門は、世界オカルト連合における外交部門としての任を負っている。極東部門においては特にその情報収集活動に重点が置かれ、脅威存在に関する情報を常に集積し、これらを分析するなどしている。在籍する特殊立会人の数は数千とも言われ、その社会での公的な身分は様々である。
総監部
対外情報局
・第1課(対財団)
・第2課(対CI)
・第3課(その他海外を拠点とする組織)
・第4課(対犀賀派)
・第5課(対日生研)
・第6課(対東弊)
・第7課(その他国内を拠点とする組織)
・第8課(組織防衛)
・第9課(廃止・天地部門通信情報機構へ統合)
・総務課(局内統括)
情報保全局
・第1課(第二任務活動専従)
・第2課(第二任務活動・教育)
・第3課(フロント組織管理)
・第4課(電子的防諜)
・総務課(局内統括)
実地活動局
・第1課(特殊立会人統括)
・第2課(特殊立会人統括・教育)
・第3課(フロント組織管理)
・第4課(情報分析評価・物理部門と合同)
・総務課(局内統括)
条約審議部(PEJEOPAT関連事項・作戦運営官所掌)
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物理部門
物理部門は世界オカルト連合における軍事組織となる。通常の部局制から離れ、指揮系統は軍政的な形に変容している。それらは通常各部門に共通し、特に排撃班は部門独自の戦力ではなく統合して運用される戦力として扱われる。
総監部
統合参謀委員会(三軍合同会議)
統合作戦本部(通常戦力)
・作戦課(作戦立案)
・計画部(軍備計画)
・情報課(精神部門出向)
後方支援本部(天地部門出向)
・物流課
・動員課(兼有事研究部門)
・物資課
技術通信本部
・戦術統合環境システム課(天地部門と合同)
・個人戦闘単位管理保守課(天地部門と合同)
・機械化戦術戦闘システム課(天地部門と合同)
第四任務局
排撃班管理隊本部
・各排撃班 - 狙撃・機械化大隊
・資産管理科
・戦術研究科
・救難科(通称レッド・トレンチコーツ)
評価班管理隊本部
・各評価班 - 特殊重装評価班(猟兵大隊)
・資産管理科
・戦術研究科
・評価第二科(通称ブラック・タイズ)
以下、各三軍参謀部
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天地部門
天地部門は世界オカルト連合の研究開発を一手に引き受け、かつ後方支援部隊の一元的な管理を行う巨大なセクションである。在籍職員には社会にも席を持つものが多く、米国やロシアによる兵器開発に携わる研究者などもいる。
総監部
設計・研究総局
・筑波第2技術研究所(設計・研究総局本部)
・播磨第1技術研究所
・根室第3技術研究所
・第1設計局(軽火器開発)
・第2設計局(重火器開発)
・第3設計局(艦艇開発)
・第4設計局(航空開発)
・近江先進技術廠(旧第5設計局・排撃資産開発)
・A-556一般実証試験場
・XX-1特別試験場
供給生産総局
・管理統計局
・物流集約センター(旧物流管理第1-3局)
・各中枢工業団地
・各化学工業団地
・資源局
・流通安全局
・市場調査局
・渉外調整局
奇跡論研究センター
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どうしようかこれ
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「西塔さあん……」
管理部門から預かったマスターキーをドアに差し込み、今一度強くドアをノックする。出勤拒否の職員というのは時折発生するもので、部屋の監視カメラがことごとく塞がれてしまったことから、同僚のぼくが派遣される運びとなっていた。
「海野です、いませんか?」
返事はない。
ドアを人一人分開いたところで、ぼくはその手を止めざるを得なかった。外気を貪るようにして流れ出てくる異臭が、暗い部屋の中に立ち込めている。腐臭やかび、そしてなにか硫黄とも違う刺激的な匂いが嗅覚を攻撃してきた。
「さ、西塔さん? いるなら返事をしてください」
そろそろぼくにもわかってくる。
ドアの中に足を一歩踏み入れると、硬い靴底にガラスが割れる感触があった。電球が床に打ち捨てられているのを踏んだようで、ぼくは思わず天井を見上げた。右手で室内灯のスイッチを入れても、どのライトも点きそうにない。どういうわけか、西塔は天井からすべての電球を取り払っていたらしかった。
だが、もしこの施設内で人に会いたくなくなった場合、ぼくでも同じことをしただろう。コンセントと電球、そして固定電話の三つに関しては全て点検しないと、きっと神経がびりびりに昂ぶってイカれてしまう。西塔は──こんな部屋の持ち主だが──心配りと観察眼には長けていたエージェントだ。
監視カメラと盗聴器を余すことなく無力化した西塔は、果たしてその後何をしたのか。鼻の曲げる匂いに袖をあてがいつつ、ぼくはゴミ袋の間に出来た小径を転々と飛んでいく。なぜか廊下に出ている電子レンジは、黒く変色したグラタンとともに床に伏している。不意に西塔の飼っていた虫のことが気になった。
あのムカデだったかヤスデだったかは、きちんと飼育されているのだろうか。もしこの部屋の惨状から逃げ出していたら、たぶん清掃員に殺されてしまっている。あいにく、ぼくにも虫を飼う趣味はなかったが、西塔のものとあれば外に逃がすぐらいのことはしてやれるはずだ。
ぼくはリビングに入るために、薄い木製の板を蹴破らなくてはならなかった。ドアの両側までぎっしりと敷き詰められたキップルが、ドアをただの木板に変えていたのだ。リビングにも彼女の姿はなく、かわりに激臭だけが取り残されている。ダイニングと兼用なことも手伝ってか、ひときわきつい。
シーリングライトも廊下と同様外されていたが、ぼくはそこに決定的な痕跡を発見した。ライトのあった穴から短いタイガーロープが吊るされて、環を結んでいる。まず間違いなく首吊りを図った痕と見てよく──ぼくは引き返そうか一瞬迷った。しかし、これは途中で自殺をやめたという線もありえる。
取り残されたロープを見つめながら、ぼくはそこに西塔が吊るされている様子をイメージする。
「まさか……」
どう見積もっても、ゴミでかさが増した床では首吊りに必要な高さにならない。西塔は、ここでの死を断念せざるを得なかったということだ。ということは、とぼくは部屋の奥に目をやる。
寝室のドアもまた、ぼくは蹴破らねばならないかと考えていた。だが実際には、その部屋の周辺だけゴミ袋が置かれず、どころかゴミすらほとんど落ちていない。神聖な部屋のドアノブに手をかけると、不用心なことに鍵をかけていなかった。それはあるいは、部屋に入ったまま出てきていないという意味になる。
冷たい感触に正気を吸い取られそうになり、ぼくは耐え難い感覚にとらわれながらノブを回した。
「西塔さん……」
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