「ふう、今日も疲れました」
ここはサイト-8121。雄大な自然に囲まれた施設で、私 白鳥美波は、オブジェクトの研究をしたり、財団の食堂で提供するお米の栽培を管轄したりしています。梅雨も過ぎ、青々と茂った稲の葉に朝日が照るのを見ながら、手元に積んでいた雑草をゴミ袋に入れます。この田んぼは無農薬栽培なので、どうしてもこういう雑草や害虫が出てしまうのです。
今日の朝ご飯を食堂のAセットにするかBセットにするか、それともカレーライスにするかということを考えていると、あぜ道の向こうから、エージェントさんが駆けてきました。どうしたのでしょう、なんだかとっても慌てています。
「あっ、いいところに!ちょっといいですか、サンドバッグさん」
「誰が米俵ですか!私は白鳥です。……それより、どうしたんですか」
「ああ、向こうの第四九一番田圃に、SCP-240-JPが収容違反を起こしたんですよ!」
「SCP-240-JP?なんでしたっけ……」
私は手についた泥を近くの水道で洗い流すと、カバンからタブレットを取り出して、SCP-240-JPの報告書を確認しました。
「あ、あのイナゴが!?」
「そうなんですよ、とにかく来てください!」
イナゴは稲を食い荒らす害虫。一刻も早く駆除……いえ、再収容しないと、大切なお米が大変なことになってしまいます。私は四九一番田圃に向かいました。
「まあ……なんてこと……!」
私は顔を覆いました。私が到着した時にはもう、四九一番田圃はSCP-240-JPで埋め尽くされていました。その数およそ0匹。あの忌々しいイナゴが、私の子どもであるお米を食べている。その事実だけで、私は真っ青になりました。
「わかりました、ちょっと待っててください!」
近くの倉庫へ駆け込むと、転がっていた空き缶を掴み、
「██████!!!!!!」
底をぶち抜きました。さらに、首にかけていた手ぬぐいを縛って袋のようにすると、空き缶に縛り付けました。即席虫かごの完成です。
気が付くと、SCP-240-JPの収容違反を聞いたのか、続々とエージェントさんや収容部隊、手の空いていた研究員の方々も集まってきています。私は倉庫を飛び出ると、こう叫びました。
「お願いです……私の、大切なお米を守ってください!」
そこにいた人々が、おーっ!と声を上げます。思わず嬉しくなって、頬を熱いものが伝いました。
……感傷に浸っている場合ではありません。私は次々と即席虫かごを作ると、職員さんたちに配って、イナゴの捕まえ方を指示します。頼もしい方々が、虫かごを手に四九一番田圃へと踏み出していきました。
二時間後。全身泥だらけになった職員さんたちが、各々のかごを見せ合います。
「俺は0匹も捕まえたぜ」
「マジかよ、0匹しか捕まえてないわ」
「皆さんすごいですね……私はたった0匹でした」
「なに、落ち込むことないさ。お前だってしっかり再収容に貢献したんだ」
収容部隊の方々が、SCP-240-JPをかごごと回収していきます。イナゴのいなくなった四九一番田圃は、太陽の日差しを受け、青々と輝いていました。
「皆さん、ほんとにお疲れ様でした!ありがとうございました!」
広げられたビニールシートの上には、真っ白なおにぎりと玉子焼き、ウインナーなどが並んでいます。再収容中、サイトの調理職員さんと協力して作ってきたのです。きっと皆さん、朝ごはんを食べていないでしょうから。
「おお、いかにも朝ごはんって感じでいいな!」
「お味噌汁もありますので、こちらに並んでくださいね」
「おいおいお前、あんまり一気に頬張るなよ」
サイト-8121に、笑い声が響きます。再収容を終えた職員の皆さんは、誰もが清々しい顔をしていました。
……でも。
「……あの、白鳥さん」
「はい?」
「向こうの第一三六七番田圃の方にも、SCP-240-JPが見つかったみたいなんです」
「えっ?さっきので全部じゃないんですか?」
「はい、収容していたのが全部で0匹、第四九一番田圃で収容したのをさっき数えたら、0匹足りなくて……。それで、向こうにいたみたいなんです」
「ええ~っ……!?」
イナゴとの戦いは、まだ終わりそうにありません。